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『恋雨』解説

『恋雨』解説

文:畑中 葉子 (歌手・女優)

『恋雨』 (柴田よしき 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 本書にも書かれてましたが、この業界は、意外に、本音の吐ける場所が、少ないのかもしれません。気を許して話したことが、週刊誌に載るということもありましたので。そんな結婚は長続きせず、八か月で離婚。実際には、三か月で実家に帰っていました。大バッシングをされましたが、事務所も、“面倒見きれない”といったふうで、そっぽを向いていました。今、思えば、当然のことですね。この後、私は、この一件の責任を取るため、事務所から「脱ぐんだったら、面倒をみる」という条件付きで仕事を再開するわけです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、待っていた仕事は、ヌードグラビア、ロマンポルノとハードな仕事に変化していくわけです。

 本書もそうですが、柴田先生の作品は、すぐに犯人が分からない。勘の良い私は、だいたいのミステリーは、最初に犯人が分かってしまい、それを確認するために、最後まで読み遂げるパターンが多いのですが、柴田先生の作品は、「なぜ?」「えっ?」「はっ?」「そこで、こうくるか」の不思議が、最後まで続きます。また、ミステリーなのに、心にドンッと落ち込む暗さがなく、あと味スッキリといった感じ。そして、読み終えたときには、ほのかな桃色のふわっと感に包まれて、自分をも、一歩、踏み出させてやれる、爽快感に、遭遇します。これが、柴田よしきワールド。

 茉莉緒と海が、偶然に出会う鴨川の河原。

 二人とも行き場がなくて迷っている気持ちが見えないところで、重なりあう。不倫、裏切り、別れ、余儀なく宣告された退職。自分の望んだ方向ではない方向へ全てが流れていくのに、その流れに逆らえずに一緒に流されていく弱さ。誰かのせいにしたい、何かのせいにしたい。そうしなければ、自分が、ここを乗り切れない。そんな茉莉緒の感情は、誰にでも経験があるものだという気がします。それでいながら、「何もしないでいたら、食べていけなくなる」と立ち上がる茉莉緒の根底にある強さには、とても、魅かれました。そして、エキストラ参加。海との再会。

 海が、茉莉緒をマネージャーに抜擢し、それに応える茉莉緒。偶然は、必然。行動を起こさないと、偶然もないということ。いろいろな事件に巻き込まれながらも、必死に海を守ろうとする茉莉緒。それは、愛情なのか、マネージャーの仕事としてなのか。自分を必要とする人間がいることの強さ。信じるものがある強さ。自分から切り開く強さ。諦めない強さ。いくつもの強さは、茉莉緒と海との間にある信頼関係から成り立っているんだと感じました。そして、それが、自分を信じる強さに.がる。茉莉緒と海、立場は違うけれども、同じ境遇から、それを支え合うことでお互いを求め合っていたように思います。そして、自信と、満たされる愛を確保できたときに、人間は、次のステップへ立ち向かおうとするんですね。

 最近、とみに思います。動いていなければ、出会いもなく、進展は何一つないのだと。

 私も、結婚をし、子どもたちも大学生となったところで、仕事を再開しておりますが、歌謡界全盛期のときの芸能界とは、全く様子が変わっていて、今でも、少しとまどうことがシバシバですが、これも時間の流れなので、この中で、自分の望むところを見定めて、仕事を続けていかなければと思っているところです。

 何かしらで行き詰ったら、コンビニでおにぎりを買って、コンビニ袋を手にさげて、どこかの川の河原にでも行ってみようかな。 (歌手・女優)

文春文庫
恋雨
柴田よしき

定価:957円(税込)発売日:2013年11月08日

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