店びらきか,おもての街ではふうせんをくばっていた.通りすがりに赤いのを一つ受けとってうらの街まで帰ってくると借りべやに近いあたりに幼児が一人であそんでいたので,手を放すと逃げると忠告して糸をからめるようににぎらせた.
休日で,めずらしくごご早いへやをかたづけたりしていると,われてしまっているので子どもが気おちしている,だれだろうか,われたふうせんなどくれたのはと,親がとてもおこってさけびたてるのが聞こえた.突いたらこわれるとは忠告しなかったと,おもわず首をすくめた.むろん,はじめからわれたのをわたされたのだったら気おちするもしないもないので,おかしな言いがかりというものだが,みょうになっとくのいく怒りにもおもえた.おもての街でおびただしくくばられていた色とりどりのふうせんは,やがてみな逃げたりわれたりしぼんだりする.この暗い路地に,もちこんではならないものだったのかもしれなかった.
プレゼント
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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