石持浅海は、「閉じた場」に魅せられている。
彼は、アイルランドの複雑な政治情勢を背景に殺人が起きる『アイルランドの薔薇』(二〇〇二年)でデビューした。殺し屋が客にまぎれこんでいる宿を舞台にした同作は、ミステリの世界ではクローズド・サークル(閉鎖空間)ものに分類される内容だった。外部と連絡をとれない状況で事件が起こり、限られた容疑者たちのなかから犯人を捜すタイプの作品である。
それ以来、石持作品のなかでは、『月の扉』(二〇〇三年。ハイジャックされた旅客機)、『水の迷宮』(二〇〇四年。水族館)、『扉は閉ざされたまま』(二〇〇五年。成城のペンション)など、クローズド・サークルものが多くの割合を占めてきた。近年では、連続幼児失踪事件の被害者家族グループが、犯人らしき男の屋敷に乗り込んで事件が起きる『人面屋敷の惨劇』(二〇一一年)、政府への不信感を高める計画の立案と兵器製造のため、施設に集まったテロ・グループ内で殺人が起きる『煽動者』(二〇一二年)などの力作もあった。
自身の創作術を語ったエッセイ「たぶん作家としてかなり問題」(探偵小説研究会編著『本格ミステリ・ディケイド300』所収。二〇一二年)によると、石持は兼業作家であり、デビュー以来、読書量が減ってしまったため、気づかぬうちに他の作家とトリックがかぶってしまうのではないかと心配したという。そこで生み出したのが、次に引用する創作術だった。
一、同業者の方々が書きそうもないと思われる舞台を用意する。先例がないかは、編集さんにチェックしてもらう。
二、その舞台ならではの事件を、トリックなしで起こす。
三、登場人物たちに議論させて、真相を見つけさせる。
石持がクローズド・サークルものを多く書いてきたのは、右記のようにまず特殊な舞台を設定することから物語を考えるようになった結果だろう。本書『ブック・ジャングル』も、ほとんどの出入口をふさがれた夜の図書館という「閉じた場」を舞台にしている。
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