インタビューほか

公開対談
北方謙三×川上弘美
作家として書き続けること

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(オール讀物 2014年5月号より)

北方「デビューしてから単行本が出るまで十年かかった」 川上「新人賞を獲っても担当者がつかなかった」 第一線で活躍する作家が明かす、小説家で居続けるための極意。

裏切り者、原稿料いくらなんだ

北方謙三きたかたけんぞう 1947年佐賀県生まれ。70年「明るい街へ」でデビュー。単行本デビューは81年『弔鐘はるかなり』。2000年より直木賞選考委員。

北方 今考えると「新潮」に載ったのが間違いの始まりでした。編集長がやって来て「君は二十代の星だ。天才だ。大江健三郎以来の学生作家だ」って持ち上げてくれるわけだ。すると自分もその気になって、天才だと思ってしまう。そんなこと考えるのは俺一人かと思ったら、そうじゃなかった。自分を天才だと信じてる奴が、他にも二人いたんです。

川上 それが中上健次さんと立松和平さん。

北方 三人で毎晩のように飲んではいろいろ議論してね、お互い頑固だから最後には殴り合い。そうやって騒いでるとヤクザに「お前ら何やってるんだ!」と怒鳴りつけられる。それで三人で路地に土下座してあやまったりね。そんなことばかりしていました(笑)。

川上 何歳くらいのときですか。

北方 二十代の前半です。あの頃は中上も立松もボツばかり食らってた。そのうち中上が『十九歳の地図』で本を出しました。そのすぐあと、あろうことか芥川賞を受賞したんですよ。中上は芥川賞を獲ったら、ボツ原稿を書き続けてる俺と立松に向かって「俺は(芥川賞を)獲った。お前らは獲ってない」って毎日言うわけ(笑)。受賞記者会見のときはグデングデンに酔っぱらってたけど、よっぽど嬉しかったんだろうな。それを見て、「本当に芥川賞が欲しい」と思った。でもとうとう候補にもならなかったけどね。

川上 北方さんは二十代のときに、自分の身長を越えるくらい原稿を書いたと聞いています。

北方 そうなんです。でも載ったのは(人差し指と親指をちょっと開いて)これだけ。十年間純文学を書いて、その間の掲載率は、立松が二割くらい。中上は芥川賞を獲ってからは十割だけど、それまでは三割くらいかな。それで北方謙三は〇割二分。あまりにもボツになるから、五年くらい経ったときに、俺は天才じゃないかもしれない、とさすがに自信を失いました。屋台で「俺も昔は文学やってたんだよ」なんて話す文学おやじになるのも人生かなと思ったこともあります。

川上 それでも書き続けたのがすごいです。

北方 なぜそんなに書けたのか、自分でもわかりません。原稿を持って行くと、担当編集者に「おまえ才能ないからやめろ」とか「時間を無駄遣いするんじゃない」って言われてね。お金も貰えないのに、それでもしがみついて原稿を持ち込んでいた。

 後年その編集者に偶然会ったとき「あんた、まだ新人いじめてんのか」って言ったら、もういじめてないと。今の新人は懇切丁寧にいろいろ指摘して、「もう一回書き直しなさい」って返したら二度と原稿を持って来ないんだって。

川上 もったいないなあ。

北方 その編集者に良い思いはさせてもらえなかったけど、「肘鉄食らわせても罵っても、いつの間にか足にしがみついて来るのは、お前らの世代が最後だった」って言われましたよ。その方は「新潮」の編集長まで務め、退職後はご自分で本も書いている。プロフィールに育てた作家の名前があって、北方謙三、中上健次、立松和平、車谷長吉。彼は四天王って呼んでた。

川上 それは激しい四人ですね。

北方 そうでしょう。もうどうにもならない奴ばっかり(笑)。

川上 北方さんはボツ時代には、お仕事もされながら書いていたんですよね。

北方 肉体労働ですよ。若かったから、文学をやるには定職を持っちゃいけない。文学に生活のすべてを賭けなければいけないと信じていました。それを信じたがために十年間棒に振りましたけど。

川上 どんな仕事を?

北方 簡単に言うとゴミ屋です。収集車に乗ってゴミを集めて回るんですよ。今は機械で押し込んで行くけど、昔は縁の高いトラックでした。ポリバケツからゴミだけ取り出してボーンと荷台に放り込む。それで夢の島みたいなところにゴミを捨てて、風呂に入って五時には仕事が終わります。あとは街路樹に殺虫剤撒く仕事もしてたなあ。

川上 殺虫剤?

北方 そうそう。住宅街に行くと、近所の奥さんに「うちにも撒いてちょうだいよ」と頼まれて。俺も要領がいいから、「本当はできないけど、しょうがないですね」とかなんとか言ってやってあげる。するとその日の日給分くらいのお金をくれるんだよ(笑)。

川上 え、お金も貰えたんですか。人徳だなあ。

北方 あの十年は長かったなあ。だから今でもよく覚えてるんだけど、エンターテインメントに転向して、最初に本が出たとき、立松が「おまえよかったな」って言ったんですよ。

川上 それはどういう……。

北方 立松は、本が出たから祝ってくれたわけじゃない。「お前は(純文学という)体に合わないシャツを無理して着ようとしてた。今は気持ち良さそうに服を着ているじゃないか」って。一方で中上は「裏切り者、原稿料いくらなんだ」ということを、ずっと言ってましたね(笑)。

【次ページ】担当編集者がつかない

オール讀物 5月号

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