インタビューほか

公開対談
北方謙三×川上弘美
作家として書き続けること

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(オール讀物 2014年5月号より)

北方「デビューしてから単行本が出るまで十年かかった」 川上「新人賞を獲っても担当者がつかなかった」 第一線で活躍する作家が明かす、小説家で居続けるための極意。

我々は菌をばら撒きにきた

北方 小説もたくさん書けるようになって、名前もそれなりに知られるようになったけど、実は一度小説家を廃業しようと思ったことがありました。

川上 北方さんでも、そんなこと考えるんですか。

北方 西アフリカのブルキナ・ファソに行ったことがあって、飢えてお腹が大きくなった子どもとか、日干しになって死んでいるおじいさんがそこら中にいた。ここでは生き延びることが第一。そのとき人間が生きていくためには小説なんて必要ない、無力だと思い知らされてね。

川上 不要なものだなとは本当に思いますね。

北方 そうやって小説家を続けていいのかと悩みながらアフリカを回って、ついにトーゴにたどり着いた。ホテルの前のベンチでタバコを吸っていると、フロントの女性が近くに座ってね。そこにまた友だちが来て、おしゃべりをしていたんですよ。ところが、ぱっと見たら友だちの方が、ポタポタ涙を流してる。何が起きたのかと思ったら、その友だちは字を知らないから、本を読んであげてた。それを見て、物語は人の心を動かすこともあると思った。これは僕にとっては大きな体験で、あの光景を見たから今でも小説家を続けていられるんです。

川上 そんなことがあったんですか。

北方 小説は皆さんが支えてくださるからこそ、心の中に存在できるものだと思うんです。本を好きになってくれれば、川上弘美の本、北方謙三の本じゃなくてもいい。そうしたら一見必要じゃないものが、実は大事だということがわかってくるでしょう。俺、今良いこと言ったと思わない?(笑)

川上 素晴らしいことを言ってくださいました。でも北方さん、ちょっと照れてませんか?

北方 そう?

川上 文学の話になると、照れて違う方向に行こうとするような……。

北方 小説なんて読むものだから、人前で語るもんじゃないよ。今日私たちは文学の話をしたんじゃない。菌をばら撒きにきたんです。会場のみなさんはもう感染してる。発症したらどうなるか? 本屋に飛び込んで川上弘美と北方謙三の本を買うことになる(笑)。

川上 さっきと言ってることが違いますよ(笑)。

北方 今日は、川上さんと率直に語り合えて嬉しかった。またどこかでお目にかかりましょう。

(2014年3月1日「第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL」丸ビル1階「マルキューブ」にて)

オール讀物 5月号

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