- 2014.07.04
- インタビュー・対談
公開対談
島田雅彦×桜木紫乃
小説の中の男と女
第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(オール讀物 2014年5月号より)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
官能小説の書き方は男女で違う――。 芥川賞選考委員と直木賞作家が語り合う、「性」にまつわる小説作法。
桜木 今日は文壇のジュード・ロウに会わせてやるから出てこいと言われて、やってまいりました(笑)。お目にかかるのはほぼ初めてなので、どんな方かと各社の担当編集者に訊いたところ、「島田さんは巨乳好きなので、詰め物をしていったほうがいいんじゃないか」と(笑)。それだけは私のプライドが許さず、詰めないで来ました。
島田 まぁ、キョ乳には巨大なほうと、空虚なほうと2つありますので、ご心配なく。どちらも好きですから。
桜木 まだ昼間ですよね(笑)。実は私は昔から島田さんの作品を拝読していますが、ずっとこのポジションを守られている方というイメージがあります。小説を書き、二枚目で、俳優や音楽も。
島田 そんなことないと思いますよ。ジャニーズで小説を書いてる子もいますし、三島由紀夫も主演作がありましたしね。
桜木 困りませんか、できることがたくさんあって。
島田 「私ども」とあえて言いますが、こういう売文業というのは大変不安定でして、社会情勢の変化に伴って干される可能性も大いにある。いつ筆を折らなければいけなくなるか分からないので、備えが必要です。先ごろお亡くなりになった辻井喬さん、西武百貨店の総帥だった堤清二さんですね、あの方はダンプとかバスを運転できる大型免許を持っていたんですよ。「必要ないでしょ」と言ったら、「いや、百貨店が傾いて、詩や小説の筆を折らなければいけなくなったときのために」と。
桜木 頭が下がります。
島田 辻井喬ともあろう方でさえ、とびっくりしましてね。私はいたく反省して、料理の腕を磨くことにしました。
桜木 そう、料理研究家でもいらっしゃるんですよね。
島田 だから筆を折ったら、あるいは大学をセクハラとかで辞めさせられたら……。
桜木 そんな予定があるんですか(笑)。
島田 いや、予定はないですけどね。こういうのは事故ですから(笑)。
桜木 では、ありえないし、失礼とは思いますが、万が一、セクハラで大学をダメになり、筆も折らなければというときに、1番最初にやりたいことは何でしょう。俳優ですか。個人的な期待を込めて伺ってます。
島田 それも世評が悪くなってるときには厳しいでしょう。わりと地味なことをしたいですね、職人的なこと。料理もそういうカテゴリーに入りますけど。今、大いなる暇が与えられたらやりたいと思っていることが1つあるんです。
桜木 何でしょう。
島田 鍛冶屋になりたいんです。一応準備をしていて、金床とか、熱いものを掴む鋏とか、少しずつ揃えています。あと鞴(ふいご)を買えばいけるかな。
桜木 思わぬ方向に話が(笑)。島田さんが鍛冶屋になると。意外な展開。どうしよう。
島田 ええ、でもそんな突飛な話でもないと思うんです。10数年前まで総理大臣をやってた人が、ずっと陶芸をなすっていたでしょう。そのまま死ぬまで陶芸家かと思ったら、都知事選に立候補されてましたけど。だから、世捨てというとカッコいいですが、ちょっと現実逃避した場合の時間の過ごし方、スペアとしての職業というのは考えていると面白いんですよね。団塊の人たちって蕎麦を打つのが得意でしょ。こういう何かを作ったりという、人の営みの原点に戻れるのはよいことだと思います。
桜木 熟年男性の蕎麦打ちって、なんかエロチックですよね。ってものすごく無理やりですが……。
島田 無理やりエロスの話に(笑)。今回、全部ではないけど、桜木さんの作品をいくつか拝読させてもらいました。やっぱり順序を追ったほうがいいと思って、オール讀物新人賞のデビュー作「雪虫」から読み始めて、出世作の『ラブレス』、あるいは直木賞受賞作の『ホテルローヤル』も拝読しましたけど、もうデビュー作でいきなり紫乃節というか、完成されてましたね。
桜木 ありがとうございます。
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