どれほど多くの街情報が様々な媒体を通じて日々更新、公開されているのだろう?
街には、目の前の現実の風景よりも手元のケータイの案内図を注視しながら道を急ぐ人がとても多いですね。
ナビゲーションを使えば自分の頭の中に地図を描かずとも最短で目的地にたどりつけるし、自分が今どこに居るのか説明できなくてもケータイのGPS機能をつかえば待ち合わせの相手に居場所が伝えられる。現在を象徴する情報ツールは、人間の能力の個人差を簡単にカバーしてくれる有能な道具だけれど、目的地までの「途中」に潜む素敵な「何か」を同時にうばってしまっている、とも思うのです。
山本一力さんの文章と僕の写真とで構成するという本書『東京江戸歩き』の仕事依頼を頂いたときも、はじめは、東京に残る江戸由来の名所旧跡を撮影することになるのかな、と考えていました。でも、打合せで久しぶりにお会いした山本さんは「金澤が街に出掛けて、お前がいいと思った所を撮って来てくれ。おれがそれを見て文を書くから」とひとこと。このまかせっぷりは昔のまんま、まっすぐに気持ちを掴んできてやる気にさせるのもそのまんまだな、とあらためて実感した次第です。
二十年ほど前、その頃は小説家ではなく広告制作会社を経営されていた山本さんに初めてお会いした時からそうでした。肩書きや身なりではなく、いきなりその人自身を見つめる。そこに向かって話されるのです。
そして山本さんは、確実に完了できそうな安全策よりも「こうしたい」という最初の気持ちを最優先しました。情熱を共有できる喜びで制作の現場はいつも活気がありました。問題が起きたとき、解決が俺の仕事とばかりに山本さんが登場する以外は、まかされたそれぞれのプロが腕をふるうという「制作過程」の充実が、結果、仕事の完成度を高くする場面がいくつもありました。
最短で効率的に目的地に到着することが必ずしも最善ではないということ、「途中」も全部魅力的な時間になりうること。そんな体験を数々ご一緒させていただいたのです。
久しぶりに、そしていつものように、山本さんとの今回の仕事は始まりました。
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