書評

なぜ人間は八本足か?

文: 土屋 賢二 (哲学者・お茶の水女子大学名誉教授)

『あたらしい哲学入門』 (土屋賢二 著)

 わたしは周囲の無理解に苦しんでいるが、哲学はそれ以上の無理解にさらされている。一般の人から見ると、他の学問が何をしているのかはだいたい想像がつく。だが、哲学は何をしているのか。頭をかきむしっているだけではないのか。とくに一般の人が想像しにくいのは解決の仕方だろう。科学の場合、どうなれば解決したことになるのかはほぼ想像がつく。だが、哲学が問題をどう解決しているかとなると、見当もつかないのではないかと思う。それも当然だ。実は、あまり知られていないが、どうなったら哲学の問題を解決したことになるかということ自体、哲学の大問題なのだ。わたしが自分なりに納得できる解決の考え方を見つけるのにも十五年以上かかった。

 哲学は他の学問と同じく、問題を解くものだ(そうでなければ哲学が存在する意味がない)。だが、問題と解決の構造は、他の学問とは根本的に違う。一般向けに哲学を紹介する場合、第一に要求されるのは、哲学が問題をどう解決するかの説明だ。

 だが、この要求を満たす入門書はほとんどないように思われる。哲学者しか入門できないような入門書(大哲学者の書いたものに多い)は、自分の哲学を主張するのに忙しくて、初心者のことには無関心だ。哲学史を紹介した入門書もあるが、多くの場合、だれが何を言ったといった知識しか得られない。知識を増やしても哲学したことにはならないし、問題がどう解決されるものかは分からない。問題をいくつか提示した入門書もあるが、どうしたら解決したことになるかはまず書いていない。

 そこでわたしは哲学の問題がどう解決されるのかに的を絞り、『あたらしい哲学入門――なぜ人間は八本足か?』を書いた。本書はもっぱら、哲学の問題がどう解決されるか、なぜそれ以外に考えられないかを具体的に説明した入門書である。

 この本は、十年ほど続いた、お茶の水女子大学での哲学入門講義に手を入れたものだ。大学に入学したばかりの色々な学部の学生に哲学を紹介する入門講義を始めるとき、わたしは哲学における問題解決法を説明することしか考えなかった。他にも入門の仕方は考えられるし、デタラメな入門でよければ百通りでも考えられるが、このやり方が最善だと思ったのだ。

あたらしい哲学入門
土屋 賢二・著

定価:1400円(税込) 発売日:2011年02月05日

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