藤井 聡『公共事業が日本を救う』 著者
中野剛志『TPP亡国論』著者
藤井 本年6月に経済産業省に戻られるまでの2年間、中野さんとは京都大学の私の研究室で一緒に学問を積み、議論を重ねてきました。この短い期間に、東日本大震災が起こり、TPP騒動が起こりと、日本の将来を左右する出来事が相次ぎましたね。
でも、われわれが納得できる議論はあまりに少なかった。その辺りについて、中野さんと改めてじっくり話してみたかったんです。
中野 議論することは実は、職業の如何を問わず、政治の実践でもあるんですね。だから、多様な意見に寛容であるという意味でのリベラルは非常に大事なんです。
ところが今の日本社会は、少数意見に対してとても寛容とはいえない。そのために実際、「多数者の専制」といってもいいような事態を招いて、政治も経済も窮状に陥っている。
藤井 例えば大阪の橋下徹市長。「ウソつきは政治家と弁護士の始まり」と著書で述べるような人物が人気者になって、マスコミも囃し立てている。ここまでくれば、大衆民主主義が末期症状を呈しているといっていい。でも、このような少数意見はほとんど見向きもされない。
中野 人気者の小泉元首相や橋下市長にとっての議論は、「何が正しいか」を追求するためのものではないんです。
「勝たなければ意味がない」と橋下氏が言うように、議論の基準は勝ち負けになっているんです。
藤井 消費税の議論についても、野田首相は国会に法案を上程する前に、「不退転の決意」で増税をすると言った。国会は言論の府で、議会とは議論を闘わす場なのにですね。
中野 真理を追求するための議論は難しい。政治は、その困難な議論を粘り強く続けて、相手を説得する長いプロセスなんです。逆にいえば、ろくに議論もせずに、ぶれずに政策を実行するのは政治ではない。それは行政の執行です。
よく政治主導といわれますが、実は政治家が官僚化しているんです。