恋愛エッセイが好きだ。
小説ではあり得ない細部のリアルさ、滑稽さ、脈絡と整合性のなさは、容赦ない現実の醍醐味である。
「理不尽な恋に悩む人がここにもいる」
共感できるのは、順調で幸せな恋より、もどかしいほどうまくいかない恋。順調な恋の喜びは当事者だけのものだが、苦しみはなぜか分け合える。
しかし『長春発ビエンチャン行 青春各駅停車』は、エッセイと呼ぶにはあまりにも重い。「私小説」といえばいいのか、それとも「恋愛ノンフィクション」なのか。ここまで長大な現実の恋物語って、今までありそうでなかったように思う。
文章量も濃度も感情の重量感も、一般的な恋愛エッセイの何倍もある。さもあらん、ここに描かれているのは、筆者の城戸久枝さんの5年近くにも及ぶ長期間の片想いの歴史だからだ。
城戸さんが20代前半頃、留学先の中国、長春で出会ったラオス人のドゥン。身長は160センチほどで高くはないが、がっしりとした体つき、浅黒い肌に小さな二重の目。読みながら、私まで彼のことを知っているような錯覚に陥ってしまった。
いや、錯覚ではないかもしれない。今どこかの街で会ったら、
「あなたがドゥンね」
と、見分けられるような気がする。
そのくらい、作中のドゥンは生々しく息づいていた。勿論、彼にひたすら恋し続けるサエ(城戸さん)も。
最初は、ドゥンのほうが積極的だった。サエを探していろんなところに電話して回ったり、毎日用もないのに連絡してきたり。そしていつの間にか、心のどこかに寂しさを飼っている女にありがちな、「ぐいぐい押されているうちにこっちが好きになってしまう」状況に陥る。
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