2011.11.30 書評

だめんず純愛ノンフィクション

文: 倉田 真由美 (漫画家)

『長春発ビエンチャン行 青春各駅停車』 (城戸久枝 著)

 恋愛エッセイが好きだ。

 小説ではあり得ない細部のリアルさ、滑稽さ、脈絡と整合性のなさは、容赦ない現実の醍醐味である。

「理不尽な恋に悩む人がここにもいる」

 共感できるのは、順調で幸せな恋より、もどかしいほどうまくいかない恋。順調な恋の喜びは当事者だけのものだが、苦しみはなぜか分け合える。

 しかし『長春発ビエンチャン行 青春各駅停車』は、エッセイと呼ぶにはあまりにも重い。「私小説」といえばいいのか、それとも「恋愛ノンフィクション」なのか。ここまで長大な現実の恋物語って、今までありそうでなかったように思う。

 文章量も濃度も感情の重量感も、一般的な恋愛エッセイの何倍もある。さもあらん、ここに描かれているのは、筆者の城戸久枝さんの5年近くにも及ぶ長期間の片想いの歴史だからだ。

 城戸さんが20代前半頃、留学先の中国、長春で出会ったラオス人のドゥン。身長は160センチほどで高くはないが、がっしりとした体つき、浅黒い肌に小さな二重の目。読みながら、私まで彼のことを知っているような錯覚に陥ってしまった。

 いや、錯覚ではないかもしれない。今どこかの街で会ったら、

「あなたがドゥンね」

 と、見分けられるような気がする。

 そのくらい、作中のドゥンは生々しく息づいていた。勿論、彼にひたすら恋し続けるサエ(城戸さん)も。

 最初は、ドゥンのほうが積極的だった。サエを探していろんなところに電話して回ったり、毎日用もないのに連絡してきたり。そしていつの間にか、心のどこかに寂しさを飼っている女にありがちな、「ぐいぐい押されているうちにこっちが好きになってしまう」状況に陥る。

【次ページ】追われる側が追う側に変わる瞬間は…

長春発ビエンチャン行 青春各駅停車
城戸久枝・著

定価:1890円(税込) 発売日:2011年11月12日

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