心静かに本を書きたい
――経歴に東京大学薬学部卒業とありますが、薬学部から電通に入社、現在は映画監督、脚本家、作家。面白い経歴ですね。
大宮 本当は植物園の園長さんになりたくて、植物学をやりたかったんです。だけど、父が薬の副作用で喘息になって、発作が大変だったんです。専門課程に進むとき父の病気を治す薬をつくりたいと思って薬学部に進んだんです。動機は純粋なんですけど向いてなかったみたいです。実験をしていても面白くないし、好きでないことには身が入らず。
それで就職に際しては自分の好きなことをやろうと。就職活動をしているときに、コピーライターという仕事があって、言葉の勉強をしながらお給料をもらえると知って電通を受けたんです。でも入社してからもサラリーマンですから、例えば営業に配属になることもあるし、ある意味で賭けでしたね。
――文章を書くという仕事はエリーさんの表現、創作活動のなかでどのような位置づけなのでしょうか。
大宮 今やっている仕事は最終的にすべて作家活動に集約されていくと思っています。若いうちにしかできないことってあると思うんです。だから、今はやれることは何でもやりたい。いろんな仕事をして、いろんなこと感じて。それが作家としての表現につながっていくと思うんです。
私は実は、あんまり人付き合いがうまくないんです。だから今、多くの人と関わりながら作品を作っている状態は私にとっては一つの訓練でもあるんです。だから最終的には、心静かに本を定期的に書いていきたい。
意外がられるんですが、私は実は口下手なんです。話すことに自信がないんです。きっとうまく伝わらない、誤解される、という恐怖心がどこかにあって。だから話すと自信がないものだから、だらだらと長くなっちゃう。それが、文章だと不思議と比較的うまく伝えられている気がするんです。実際、よく私が手紙を書くのはそのためです。書いて伝える、ということは、私を唯一守ってくれるような、拠り所、といいましょうか。だから、ずっとこれからも、言葉を綴る、ということを、信じて生きて行きたい、そんな気持ちです。