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史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る 第5回 二度とこんなことはできない! 二人だからこそできた

史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る 第5回 二度とこんなことはできない! 二人だからこそできた

司会・構成:杉江 松恋

『キャプテンサンダーボルト』 (阿部和重 伊坂幸太郎 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

【注:こちらの記事は、単行本刊行時のインタビューです】

――執筆を始めてから約2年間、いよいよ「キャプテンサンダーボルト」の完成が見えてきました。その時点ではどこの出版社から作品を出すかということは決まっていたんですか?

伊坂 決まってなかったんですよ。僕はこの合作を持って「これを出してください」と出版社に言いに行くことを夢見てました。それで三人でいろいろなことを考えて、文藝春秋さんにお願いすることにして。それが、2014年6月ですね。

――最近じゃないですか!(対談が行われたのは9月初)

伊坂 それで今度は文春編集者の意見を聞きながら改稿が始まるわけですが、そこからも大変な作業でしたね。この工程で、本当に合作感が強くなったというか。阿部さんとじゃなかったらできなかったというのを、つくづく感じました。

阿部 最初にお互いのすごい近い部分があったから、最後にも生きたというか。それがあったから方向性を見失わなかったし、やり取りに関してもムダなことがひとつもなくて、内容の質の向上につながるようなやり取りだけでいけたんですよね。

伊坂 そこで「ふたりは似てるし、違う」というのも、すごくよく分かりました。さっきのプラモデルで言うと、僕は「剣を持たせてみよう」「つや消しで塗ったらかっこいいな」とかそういう方向に行くんですよ(笑)。感覚的な、思いつき重視というか。それを阿部さんに渡すと、汚しの技術とかを使って本当にリアルにしていってくれるんです。奥行きというか、現実感が出てくる。今までの僕の作品にはなかった部分です。あと、僕が改稿の時に意見を言うと、「伊坂さん、それはちょっとよくないんじゃないか」と言ってくれたんですよね。それもすごくよかったです。もしかすると、相手が別の作家さんだったら、「それ、いいね」と全面的に賛成してくれるだけかもしれない。でも、それでは意味がないじゃないですか。しかも、阿部さんは決して、嫌な言い方で否定してこないんですよ。頭ごなしに言われたら、僕もかちんと来たかもしれないですし(笑)。そこが本当にありがたくて。

阿部 伊坂さんが的確に言ってくれたように、重なりもあれば、細かい違いもある。お互いの属してるジャンルの違いの反映かもしれないし、作風の違いなのかもしれない。だから微調整の段階ではやり取りをすることが大事になってくるんです。今回はお互いの作品について、それがどういう風にできているのか、という理解が十分にあったので話がしやすかったんだろうし、きつい作業の中でもお互いが背を向けることなく最後まで行けたんだろうなと思いますね。特に後半なんて、傍から見たら土足で他人の家に上がりこんでガチャガチャガチャといじくりまわすような作業になりましたから。これだけの密度でいろいろ削りあったり、磨きあったりするのはそうそう誰にでも、誰とでもできるものではない、という自負はありますね。

伊坂 できあがってみたら、「自分だけで書いたら絶対こうはならなかった」というものになったことに僕はすごく感動しました。これは本当に強調しておきたいんですけど、こういう風に作られた作品って、どこか、企画物みたいな印象もあるかもしれないじゃないですか。本人たちは楽しいかもしれないけど、内容はそうでもないかも、という(笑)。でも、今回は本当に、二人の今までの技術と勘を導入して、最高に面白い小説ができたと思っていて、それが本当にうれしいんですよ。「春樹さんに対抗したいですよね」みたいな話からはじまったのが、結果的に、そういうものとは到底思えないような、エンタメ小説となった、というのも僕たちらしい気がしますし(笑)。しかも、二度とできないですからね。今回、阿部さんが作家としてどうすごいのか、どういう風に作品を作っているのか、それが少しわかったんですけど、今後の自分の創作には生かせないですもん(笑)。やれって言われても、僕にはできないから。

阿部 それは僕の方もおなじで、自分にできることと自分にできないこと、そして伊坂さんの持ち味、それらについて「ああ、こういうことか」と理解がいっそう深まりました。本当に、ふたりで力を合わせて、補い合って生まれた、二度とできない作品という感じです。お互いの一番良い部分が重なり合ってるんじゃないかと思います。一番良い状態のふたりを出しえたんじゃないかなという手ごたえがありますね。ただ、僕も今年作家生活20年になるんですけど、今まで味わったことがないし、これからもたぶん二度とないであろう濃密な時間を体験してしまって、もう次は同じことはできないから、この刺激を知ってしまったオレの身体はどうなっていくのか、みたいな不安はあります(笑)。

伊坂 寂しさもありますね。きつかったけど、ああ、もう終わっちゃうんだ、という。

史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る
第1回 ふたりで村上春樹さんとたたかう
第2回 タイトルはこうして決まった! それ自体がすでに合作!
第3回 全体の文体は? 「合作」を突き詰める
第4回 持てる技術をすべて注ぎ込んだ! 内容は、バディもの?
第5回 二度とこんなことはできない! 二人だからこそできた

キャプテンサンダーボルト
阿部和重 伊坂幸太郎・著

定価:本体1,800円+税 発売日:2014年11月28日

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