- 2014.11.05
- インタビュー・対談
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る 第4回 持てる技術をすべて注ぎ込んだ! 内容は、バディもの?
司会・構成:杉江 松恋
『キャプテンサンダーボルト』 (阿部和重 伊坂幸太郎 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
【注:こちらの記事は、単行本刊行時のインタビューです】
――さて、いよいよ執筆が開始されるというところからですね。
伊坂 僕が最初の場面を書きはじめたのが2012年の6月ですね。あの時のプレッシャーはかなりすごかったですよ。最初はやっぱり大事じゃないですか。読んだ阿部さんに、「何で、こいつと合作やろうとしたんだろ」とか思われたら悲しいですし。会話劇でいけるパートだったので、僕の得意な場面ではあるんですよ。だから、使える技術を全部使おうと思って。ダジャレは出すし(笑)、トリヴィアルな情報も入れて、その流れの中で伏線も埋め込む。自分が十何年で培ってきた技術をすべてここに注いでやる、と思って書きました。読むと大したシーンじゃないんですけど(笑)。
阿部 「場面ごとにこういうことをやる」という、書き手にとっての課題やテーマが毎回あるわけですね。序章の部分には、伊坂さんから出てきたアイデアがあったので、それで担当になったわけです。たぶんこんな風にできてくるんだろうと予想をしていたら、もう全然違うものが出てきた。しょっぱなから予想を超えるものが出てきて、いきなりハードルが上がってしまった。もちろん、力を抜いたものを書こうとは全然思ってなかったですけど、はるかに気を引き締めなくてはいけなくなった。次の章は群像劇なんですが、それは僕の得意分野ではある。だから伊坂さんが言われたような「持てる技術を注ぎ込む」というのを同じような感じでやろうと思いました。ただ、打ち合わせの段階で互いに考えても決まらなかった問題のひとつが早くもそこの部分であって、その処理について伊坂さんから「これはどうかな?」という答えが返ってきたらどうしようというドキドキ感があって、あれはあまり感じたことのないプレッシャーでしたね。
伊坂 僕は初めて編集者の気持ちになるわけじゃないですか。作家から原稿が送られてきて、最初の読者になるという。あれは感動ですよね。最初に阿部さんのやつを読んだときは本当に興奮しました。それで感想書いて……まあ喜んでいる場合じゃなくて、ようするに次は自分が書かないといけないんですけど(笑)。
阿部 読んでおしまいじゃない(笑)。
伊坂 リレー小説って今までもあったと思うんですけど、それはお互いに渡したら「こう来たんだ。やられたなー」みたいなノリのものもあったと思うんです。今回はそうではなくて最初にガッチリ決まってる。本当にプラモデルの腕と脚をそれぞれが組み立てている、というレベルなんで。それぞれの原稿についての驚きはあるけど設計図はちゃんと守っているんですよね。
阿部 そうです。途中から出たアイデアも良いものは採用して入れていくんですけども、そのせいでいろんなバランスが崩れもする。その再調整をしなきゃいけなくて、どんどんきつくなっていくという(笑)。
伊坂 あ、たとえば、この小説は男の相棒ものみたいな感じなんですよ。僕個人はすごく盛り上がっていたんですけど、ある時、急にふと気になって、「これ、女の子が読んでもおもしろいんですかね?」と何気なく言ったら、けっこう阿部さんが深刻になって(笑)。
阿部 それはもともと僕個人でやってる仕事の大問題だったわけですよ。「阿部の小説は女子受けが悪すぎる。それを何とかしていかないと読者層を開拓できない」ということに直面している時期だったので。「深刻だぞ、このホモソーシャル感は」みたいなことになった。
伊坂 しかも、「帰りの新幹線で考えた」って、すぐ改善案が送られてきたんですよ(笑)。
阿部 「じゃあ、もうこれしかない」となって、ひとつアイデアが出たんですけども、それを入れることによって、またいろんなことを変えていかなくちゃいけなくなった。あれでずいぶんこの小説は完成が遅れたよ(笑)。
伊坂 でも、あれでかなり、良くなりましたよね。そういえば、1ヶ所、設計図にないことを僕が言い出したこともありましたね。あるパートが、『ゴールデンスランバー』のシーンと重なるように急に気になっちゃって、「こういう風に展開を変えたらどうですかね」と言ったら、そこは阿部さんの担当していたところだったんですけれど、それも引き受けてくれて。
阿部 それが作品にとっては幅が広がるような結果に結びつきましたからね。
伊坂 で、あるところで、阿部さんが「じゃあ伊坂さん、前回の僕のところ直しておいてよ」って言ったんですよね。その時に初めて阿部さんの文章に手を入れたんですよ。その緊張感たるや……。
――それはそうですよね。
伊坂 阿部さんが「最終的にはそうする決まりなんだからいいんだよ」と言ってくれて。それでも僕はけっこう「いいんですか?」というレベルでしたね。
(続く)
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る
第1回 ふたりで村上春樹さんとたたかう
第2回 タイトルはこうして決まった! それ自体がすでに合作!
第3回 全体の文体は? 「合作」を突き詰める
第4回 持てる技術をすべて注ぎ込んだ! 内容は、バディもの?
第5回 二度とこんなことはできない! 二人だからこそできた
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