- 2014.10.29
- インタビュー・対談
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る 第3回 全体の文体は? 「合作」を突き詰める
司会・構成:杉江 松恋
『キャプテンサンダーボルト』 (阿部和重 伊坂幸太郎 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
【注:こちらの記事は、単行本刊行時のインタビューです】
――さて、「キャプテンサンダーボルト」のタイトルも決まり、2011年8月、蔵王へ取材旅行に行かれたそうですが。
阿部 しかも伊坂さんが車を運転してくださって(笑)。
伊坂 車内でもいろいろ話しましたね。印象的だったのが、ラストの、ある重要な出来事の解決方法について、阿部さんがあのときに考えてくれたんですよ。突然、車の中で阿部さんが「昨日から考えていたんだけど、いいアイデアひらめいたんだよ」って言いだして。「いいアイデア」って言われちゃうと、聞く方のハードルが上がっちゃうじゃないですか(笑)。運転しながら僕はけっこうドキドキしてました。これで、さほど良くないアイデアだったら、どうリアクションしたらいいんだろう、と(笑)。でも、阿部さんが話してくれたら、本当にすごくいいアイデアで。
阿部 良かった(笑)。あの半日取材旅行はいろいろ楽しかったよね。日頃は部屋にこもってひたすら孤独に文章を書く生活を送っているわけですが、そのときは、みんなでアイデアを言い合いながら自然の中を何時間もドライブして、小学生の夏休みみたいな解放感を味わえた。男三人で蔵王の上行ってアイスか何か食ったんだっけ(笑)。
伊坂 あ、玉こんにゃくですね(笑)。震災の傷痕はまだ残っているんですけど、ようやく若干落ち着いたころでした。
阿部 気持ちの暗さがそこでちょっと忘れられたというかね。
伊坂 そうなんですよ。帰って「友だちと遊びに行ったみたいだった」と奥さんに報告したら、「じゃあポシャっても思い出になったね」って言われて。それで阿部さんと編集の三枝さん二人に、そのことをメールで伝えたら、三枝さんからすぐに、「ポシャらせませんよ」って返事が来て(笑)。
――お話を伺っていると本当に、ベテランのおふたりが、「これ書いたらおもしろいじゃん」と言いながら部活動のようなノリでやっている感じですね。実に楽しそうです。
阿部 そのころまではね。この辺りから、「このアイデアとこのアイデアを実現するには間をどう埋めるの?」というのが出るようになってくるんです。それで時間がかかり始める。
伊坂 あのあたりで阿部さんがぽろっと「全体の文体考えないとね」と言ったんです。そこで初めて「本当に二人の作風を混ぜるつもりなんだ」と気づいたんですよ。僕が考えていたのはちょっと章ごとにバラバラで、読者にも「ここは伊坂だな」と分かるようなイメージでした。
阿部 いや、僕のほうもだんだんとそうなっていった感じだったのですが、とにかく、ここまできたら限界まで行くしかないなと思って。
――ということは、合作といっても交互に書くような形式ではなくて……。
伊坂 もっと混ざってます。
阿部 「神戸牛か、我々の合作か?」というぐらいの霜降り状態で(笑)。
伊坂 どういう譬えなんですか(笑)。明らかに僕が書いたな、という個所も当然あると思いますけど、僕の文章の後に阿部さんの会話が来たり、僕の文章の中に阿部さんの表現が重なったりもしています。一文の中に、僕と阿部さんが手を入れていますし。
阿部 いちおう章ごとに担当は分かれています。その章ごとに順番で書いていったんですが、書き進めていくうちに、前に戻ってお互いに書いたことを書き直すような作業形態になっていきました。さらに最終的には、まず伊坂さんが全体を直して、次に僕が全体を直すという。もう章の区切りも関係なくお互いがお互いの文章をいじり合うみたいなことになりましたので、掛け値なしに合作と言っていい小説になっていると思いますね。
――作業はどんな風に進めていかれたのでしょうか。
阿部 この業界で最も忙しい作家であるはずの伊坂さんが、じつはけっこう編集者みたいな仕事をしてくださっている(笑)。
伊坂 最初に、「とりあえず骨組みを作りますね」と言って、僕がプロットの表を作ったんですよね。かなり、ざっくりですけど。
阿部 あれは本当に見やすくて助かりました。章ごとに全部きれいに整理されてて。
伊坂 僕のシステムエンジニア時代の魂が、こう(笑)。昔使っていた、仕様設計書のフォーマットをちょっと改造して書いたんです。あんなことは初めてやりましたけどね。普段の自分は書きながら考えるんです。阿部さんがちゃんとプロットを考える方だというのを聞いていたので、「じゃあ作ってみよう」と思って作ってみました。
阿部 初めて作ったにしては、僕が何度も何度も作ってるものよりも見やすくて(笑)。そこから細部を詰めていく作業を続けていきましたが、そのうちに、もうあとは書きながらじゃないとちょっと詰められないな、という感じになりました。何度考えてもどうしても決まらないところがある。「これは書いていくとその表現で何とかいけちゃう問題かもしれないから」みたいなことになって。
(続く)
史上最強の完全合作! 阿部和重、伊坂幸太郎がそのすべてを語る
第1回 ふたりで村上春樹さんとたたかう
第2回 タイトルはこうして決まった! それ自体がすでに合作!
第3回 全体の文体は? 「合作」を突き詰める
第4回 持てる技術をすべて注ぎ込んだ! 内容は、バディもの?
第5回 二度とこんなことはできない! 二人だからこそできた
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。