- 2012.02.13
- 書評
先見性に、心からの敬意
文:菅谷 昭 (医学博士・長野県松本市長)
『「内部被ばく」こうすれば防げる! 放射能を21年測り続けた女性市議からのアドバイス 』 (漢人明子 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
本書を通覧するにあたり、1番はじめに私が最も驚いたことは、著者の漢人氏が、1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発事故に端を発し、放射能汚染に不安を抱く有志を募り、精力的に市民運動を展開し、行政機関による食品の放射能測定の要望を粘り強く求め続けた結果、2年後には行政を動かし、測定器の購入にこぎつけ、更に市民組織を軸に、それ以降今日まで21年間にわたり放射能測定を行い、食品汚染の監視を継続していることである。
そのような中、今回のわが国におけるレベル7に相当する原発事故の発生である。著者らの一連の行動や先見性に、改めて心から敬意を表するものである。
この本は、放射能から身を守る3つの原則、即ち「測る」、「避ける」、「動く」の章立てにより構成されている。お読みいただければわかると思うが、全体を通して大変理解しやすい。難解な言いまわしや専門用語を極力用いず、まさに一般の方々を対象とした書物と言える。
「わかりやすさ」の理由は、多くの市民の皆様からの質問や相談内容を基にして、具体的な形で丁寧に説明し、必要に応じて関連資料も添えているからである。
“目に見えない”、“においもしない”、“味もしない”、このような様々な種類の放射性物質に対する異常なまでの恐怖や、更には不気味な強迫観念にさいなまれる市井に生きる人々に対し、確たる説得力をもって述べられている。
単なる机上での理想論や研究成果を語るのではなく、具体的事例、何よりも著者らの活動の結果を掲載していることに本書の強味がある。冒頭に掲げた私への質問などに対する的確な解答が散見され、読者も納得できるものと思う。
改めてこの書に目を通しながら、かつてのベラルーシでの医療支援活動を思い返す時、甲状腺ガンの手術を受けた幼き子どもたちの親の悲しみ、切なさが私の胸中を駆け巡っている。
「あのとき、外で遊ばせなければ…」
「あのとき、キノコを食べさせなければ…」
「あのとき、イチゴを採りに森へ連れていかなければ…」
福島にこのような悲しみの連鎖が生じないことを、ただひたすら祈り、願うのみである。
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