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もはや「医療先進国」ではない日本

もはや「医療先進国」ではない日本

文:中田 敏博 (医師・ベンチャーキャピタリスト)

『医療鎖国――なぜ日本ではがん新薬が使えないのか』 (中田敏博 著)


ジャンル : #ノンフィクション

 私も日本で生まれ育った者として、海外の最先端の治療法を日本の患者さんたちにいち早く届けたいとの思いから、投資先企業の日本進出も意欲的に手掛けてきました。

 しかしながら、それを実現する上で、いつもつき当たるのは、日本の規制当局でした。私たちの試みは、革新的過ぎて前例がないという理由で、リスクを盾に拒絶する「鎖国」体質に阻まれ続けました。

 先端医療に対して「鎖国」する日本の姿を現場で痛感してきました。

 医療「鎖国」はこれに止まりません。日本の医療は、世界の情報からも「鎖国」されています。

「鎖国」された私たちは日本の医療水準が世界からかけ離れていることを知らされてきませんでした。

 例えば、医師不足は、先進国水準からみれば、この二十年以上に亘って存在してきましたが、政府はそれを頑なに否定し続けてきました。

 その上、医療制度の仕組みはあまりにも複雑になりすぎて、私たちは医療のことを考える気力さえ失いました。

 結果として、世界に類を見ない人員・費用削減一辺倒の医療政策がいともたやすく強行されてしまいました。今の医療崩壊は起こるべくして起きたのです。

「鎖国」を望んできたのは、医療を内から牛耳ってきた官僚、政治家、専門家、そして業界団体などの旧(ふる)い既得権益者です。彼らは、私たちが分からないのを良いことに、専門性という重箱の奥に逃げ込んで、自らに都合よく仕組みを決めてきました。私は、この国民目線不在の現実に大きな抵抗感を感じて本書を著そうと思いました。

 だからこそ、本書を、専門家ではなく、むしろ漠然と医療への危機感と期待感は持っているが、身近に感じられない、分からないという人に是非読んでいただきたいのです。

 みなさん、まずは、医療問題は特別だという先入観を取り払ってください。意外にも、問題の根源は、私たちに馴染みのある政治・経済問題と全く同じです。うまく?み砕くことができれば、一般常識で必ず判断できるものです。それを著書の中で実証していきます。

 本書の立場は、医療従事者という内部の専門家的立場から、閉鎖された医療の姿をあばこうとするものではありません。逆に、私はこの十年日本を離れていたので、問題の詳細は把握していないことも多いかと思います。むしろ、医療と国際ビジネスという対極にある現場の両方を垣間(かいま)見てきた私ならではの、独自の視点を心がけてきました。国際比較や他業界の常識を武器に、閉ざされた医療の世界の常識に挑戦したいと考えているのです。

 みなさんが、本書を読み終えた後で、まずは医療問題を少しでも身近に感じていただければ何よりです。更には、今の医療の現状と問題点について自分で判断できる基準を持たれることの一助になればと考えています。そうなればもはや官僚にも、専門家にも、メディアにも惑わされることはありません。少子高齢化や国家の財政難という時代の大きなうねりの中でも、みなさんが自らの判断基準で必要な医療を選ぶことが出来るのです。

 そのときこそが、私が考える医療「開国」であると考えています。

医療鎖国
中田 敏博・著

定価:809円(税込) 発売日:2011年03月18日

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