石田衣良作品との最初の出会いは、塀の中だった。工場の図書棚にあった『40(フォーティ) 翼ふたたび』――ちょうど獄中で四〇歳になったから、その記念(?)に読んでみた。不惑を迎えたフリーの広告プロデューサーが、色々な人々の問題と正面から向きあい解決していくオムニバス話だ。大手の広告代理店を辞めて先輩の始めた小さな会社に入るんだけど、大手時代の感覚で予算を使いまくり、会社にいづらくなって辞めてしまう。そこから人生を再確認していくストーリーで、不覚にも、ラストでホロリとさせられてしまった。
この中の一話のIT社長は僕がモデルらしい。何で俺がAC/DCとかのクラシックロック系Tシャツをよく着ていることを二〇〇五年の時点で予言しているんだ? とびっくりした覚えがある。
そんな大人の節目を描いた作品と打って変わって、本書は、ちょっと風変わりな少年カンタと人気者の耀司という、固い絆で結ばれた男子ふたりの成長物語だ。団地でともに育った彼らは十代にバブル期を駆け抜け、やがて時代の波にのって携帯ゲームを開発し、マネーゲームに翻弄されていく。
僕がまず面白いと思ったのは、小学校五年生の耀司が銀座の高級クラブで働く母・麗子にストールを届けるシーンだ。カンタと一緒にタクシーに乗って夜の銀座に繰り出すなんて、小学生にしたら大イベント。ふたりは華やかなネオンの中、「外国映画の女優」のようにピンクのドレスを着た麗子に店の客を紹介される。
「麗子に似て、いい男だな。あんまり女を泣かすようになるなよ」
篠原という男は尻のポケットから長財布を抜いた。子ワニを一匹つかった黒いクロコダイルの財布である。一万円札を抜くと、耀司にさしだした。
「ほら帰りのタクシー代だ」
迷っていると、麗子がいった。
「いいから、もらっておきなさい。篠原さんにはティッシュペーパーみたいなもんだから」