耀司は渋谷の交差点でゲームをするカンタと、携帯を開いた人の群れを見て、「携帯ゲームがくる」と予感した。ビジネスの油田を見つけた時ってまさにあんな感じ。時代の先を読んだわけじゃない。それは陳腐な分析で、その時点で多くの人にとって未来であったことが、彼らにとっては今だっただけだ。Aという情報とBという情報を組み合わせて、Cという現実を生み出す――。それは閃きだし、そこから新たな現実をつくり出せたのは、彼らに「ノリのよさ」という行動力があったから。
新しい現実を生み出せる人とそうでない人の違いは何か? 端的に言ってしまえば、深夜に「ちょっと今面白い奴と渋谷で呑んでるんだけど来ない?」と言われて行く人と行かない人との差だ。次の日は五時起きで早朝から出張。飲みに行ったら徹夜だろう。さあ、どうする? そこで出かけていけば思わぬ人と出会えたり、憧れの人に繋がるかもしれない。どんどん前に進んで行動し、恐れずにリスクをとっていく耀司の行動力には、メンタリティ的に自分自身と重なるものも多く感じたな。
ただ、耀司とカンタには同じ業界の経営者の先輩として、ちょっとした説教をしたいんだ。会社を買収したかったら、もっと脇を固めて要領よくやろうよ。まず、買収資金に、デット(借入金融、つまり返済義務のある債務)を使っちゃダメ。エクイティ(新株発行を伴う資金調達)でやらなくちゃ。株主から預かったお金なら返済を急ぐ必要は全然ないわけ。デットで資金調達するからトラブルになるんであって、ましてや裏社会のカネを使うなんて論外。
M&Aは、たとえばLBO(レバレッジド・バイアウト)という、相手先の資産を担保にしてお金を借りる手法でやればよかったんじゃないかな。買収先の持っている資産を担保にして、「この企業には〇〇億円分の価値があって、買ったらその資産で返しますから」といって銀行かファンドに借りに行けばいい。育ってきた家庭環境もあるんだろうけど、上場企業の経営者としては、そのぐらいしたたかにやってほしかった。
でもね、また再チャレンジしてほしいんだ。ベンチャーの世界には本当に数多くの失敗がある。失敗に学ぶ奴もいれば、学ばない奴もいる。この挫折を経て、君たちなら再起動して、今ならスマホのアプリゲームとかで大成功できるんじゃないかな。ふたりには情報と情報を組み合わせる閃き――そして何より、共に力を合わせてそれを現実にできる行動力があるのだから。
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