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『カンタ』解説<br />

『カンタ』解説

文:堀江 貴文 (実業家)

『カンタ』 (石田衣良 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 きらびやかなバブル期の描写が、ひどく生き生きとしている。こんな時代のマネーにふれて、悔しい思いもいろいろとして、ふたりは「お金は自由になるためのチケットだ」という考えに至る。そう、お金は自由をくれる。

 僕自身は、何かをやりたい時にお金のせいでできない、お金が集められないからできないというのが馬鹿馬鹿しいと、ずっと思っていた。別に裕福な家庭に生まれたわけじゃないから、自然とそんな感覚が芽生えたんだろう。僕はただ、インターネットの会社を自由にやりたかっただけ。最初は株なんて全然知らなかったし、上場って何? みたいな。上場したら資金調達が容易になって自分たちが構想していることがやりやすくなるから、株式を公開し、M&Aに踏み切った。耀司は言う。「自由になれなければ生きてる意味がないじゃないか。ぼくはいつか誰の手も届かない場所までいってみせる」ってね。

 でも、自由を求めて駆動するロケットパークの経営手法を、旧態依然とした連中は痛烈に批判する。「こつこつと生活のために働いている勤労者の意欲をダメにする」と口角泡を飛ばす評論家に対して、耀司が言い放ったセリフはじつに痛快だった。
 

「あなたたち大人は、そんな勝手な意欲ばかり若者に押しつけている。ぼくたち若者だって、毎日必死で働いていますよ。でも、その結果、同世代の半分近くが非正規雇用の派遣社員やアルバイトです。年収は二百万円台しか払わないくせに、勤労意欲だけは昔ながらの滅私奉公を強要する。若い世代はみな、あなたのような人に怒りをもっています」
 

 本当にその通りだと思う。昔ながらの製造業中心の社会で汗水流して働いていれば、人並み以上の暮らしが手に入る、なんて完全な幻想! それが現実だった時代もあるけど、いまは絶対に違う。若者たちはパソコンの前で必死になって仕事をしている。それが僕らの世代の戦い方なんだ。

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カンタ
石田衣良・著

定価:670円+税 発売日:2014年05月09日

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