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公開座談会<br />角田光代×奥泉光×鵜飼哲夫「芥川賞、この選評がおもしろい」

公開座談会
角田光代×奥泉光×鵜飼哲夫「芥川賞、この選評がおもしろい」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL


ジャンル : #小説

芥川賞の歴史は、選評の歴史でもあります。 新人作家への激励あり、白熱のバトルあり。 直木賞作家の角田光代さん、芥川賞選考委員の奥泉光さんと読売新聞の「本の虫」鵜飼哲夫さんが、熱くて真剣な、芥川賞選評の世界へご案内します!

鵜飼 芥川賞・直木賞は、このたび150回を迎えました。皆さんは今、文学賞や新人賞に選評がつくのを当たり前だと思っておられるでしょうが、実は、選考委員が選評を書いて、選んだ経緯を明らかにするというのは、この両賞から本格的にはじまることなんです。

 それ以前の文学賞にも、昭和4年に小林秀雄が『様々なる意匠』で第二席に入選した「改造」の懸賞評論・懸賞小説などがありましたが、選評はありませんでした。

 選評にはバトルもあります。石原慎太郎さんの『太陽の季節』が芥川賞を受賞したとき、

〈その力倆と新鮮なみずみずしさに於て抜群〉(井上靖)

などという意見に対して、佐藤春夫さんが、

〈この作品から作者の美的節度の欠如を見て最も嫌悪を禁じ得なかった。〉

と言って大激論になりました。

 芥川賞の歴史は、選評の歴史でもあります。今回は芥川賞選考委員の奥泉光さん、直木賞作家で、川端賞・山本賞・文學界新人賞などの選考委員をつとめておられる角田光代さんと、これまでの選評を読みながら、芥川賞とはどんな賞なのか、考えていきたいと思います。

 まずはお2人が候補になったときの選評の思い出を教えてください。

角田 新人賞でデビューしたときを別にすれば、初めて選評を書いてもらったのが芥川賞なので、ちゃんと読んでもらって嬉しいな、励まされるなあと思った記憶があります。ところが、今回、読み返してみたら、ほとんどの人が私の小説について触れていなかった(笑)。

奥泉 僕は三島賞やすばる文学賞の選評からけっこう影響を受けたところがあるんですけど、それはのちほど。芥川賞では、受賞したときの吉行淳之介の選評を覚えています。

〈奥泉光氏の作品は、これで四作読んだ。いつもその腕力と言葉の氾濫に負けそうになっていたが、今回は素直に降参することにした。〉  

 僕は4回候補になって、4回目で受賞したんですが、あとで漏れ聞いた話では、「もうこの人の作品は二度と読みたくないので、今回取らせることにしましょう」とおっしゃったそうです(笑)。それで今回記録をみてみたら、吉行さんも4回目での受賞でした。

鵜飼 昭和29年上期の「受賞のことば」で、吉行さんは芥川賞のことを〈一年に二回定期的にいやがらせをしに訪れてきて、神経を疲労させる厄介な知人〉と呼んでいます。

奥泉 僕もそういう感じでしたが、吉行さんも、4度目でようやく取れてほっとされたのかな、と。角田さんも、何度か候補になられましたね?

角田 はい。たとえば、隣のクラスの子に「誰々君があなたのこと好きだって言ってたよ」って言われて、その男子のこと全然知らなかったのに急に意識するようになって、ついに「話がある」って呼び出されて、「来た! やっと来た!」と会いに行ったら、「この手紙を友達に渡してくれ」と言われるような迷惑さ(笑)。自分で直接、渡せよって思います。

奥泉 まあいやなら、最初から候補を断ればいいわけでね。とにかく同じ受賞者でも、初めて候補になった回で芥川賞を取っちゃった人と、何回も候補になった人では、だいぶ感想が違うと思いますね。

 

【第1回】太宰治が猛抗議した川端康成の選評

〈受賞作〉石川達三『蒼氓(そうぼう)

〈候補作〉外村繁『草筏』/高見順『故旧忘れ得べき』/衣巻省三『けしかけられた男』/太宰治『逆行』 昭和10年8月10日、第4回委員会で受賞作決定

鵜飼 さて、まずは第1回芥川賞です。受賞作は、石川達三の『蒼氓』。後に『結婚の生態』、『僕たちの失敗』、『青春の蹉跌』などのベストセラーを生み出した方です。対抗馬は高見順、外村繁、そして太宰治。このときの太宰についての川端の選評がすごいんです。

〈私見によれば、作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった。〉

 才能があることは認められていたのに、生活に厭な雲があると言われて落ちてしまった。太宰ファンの角田さん、いかがでしょうか?

角田 太宰はこのあとで、芥川賞を私に与えてください、という情けない手紙を川端あてに書くじゃないですか。こういう選評を書かれたことが、どれだけその作家のその後の作家生活、作家生命に関わるか、考えてしまいますね。

鵜飼 でも、そのことで太宰はどんどん大きい作家になるのだから、厳しいことを書かれて、プラスになったとも言えるのでは?

奥泉 いや、僕の数々の文学賞で落ちた経験からすると、落ちてプラスになることはまずありません。角田さんは、「ここがよくなかったのかな」と反省する?

角田 はい、しますよ。猛烈に反省して、次回書くときに生かすようにします。

奥泉 あ、するんだ(笑)。でも、「審査員が悪い」って思わないと、やっていけないところもあるじゃないですか、小説家は。

鵜飼 奥泉さんはまったく反省しなかった?

奥泉 誰かが選んでいるわけだから好みもあるだろうし、自分とは感覚が合わないなあ、しかしそういうことも当然あるよな、とだいたい思いましたね。

鵜飼 選評を読んで、太宰は川端さんに抗議文を出しました。

〈事実、私は憤怒に燃えた。幾夜も寝苦しい思ひをした。小鳥を飼ひ、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。〉

 これは、小鳥好きで『禽獣』という小説も書いている川端への揶揄なんですね。そのあとが、すごい。

〈刺す。さうも思つた。大悪党だと思つた。〉

角田 怖いですねー(笑)。

奥泉 普通は言わないよね、そう思うだけで。

鵜飼 え、奥泉さん、そんなふうに思ったこと、あるんですか?

奥泉 いやいや、そこまでは思ったことはないですけど、さすがに(笑)。

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