- 2014.07.04
- インタビュー・対談
公開対談
島田雅彦×桜木紫乃
小説の中の男と女
第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(オール讀物 2014年5月号より)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
純愛小説がまた流行る?
桜木 私は新人賞受賞から12年、ちょうど干支で1周して、己のパターンが読めかけてます(笑)。
島田 人の細胞の入れ替わりというのはだいたい6年周期で、人間のものの考え方も6年、12年経つと移っていくと思うんですね。だからマーケットというものを大きくとらえ、次に流行るものは何かと考えると、12年前に流行ったものがくる、と大雑把に考えておくと、それほど外れません。振り返ってみると、近頃は純愛小説というのがあんまり流行らない。世界の中心で叫んだりしたのは、もうかれこれ12年くらい前になるのかな。
桜木 そんなになりますか。
島田 ああいうブームがあったことを今の大学生は何かで読んで知っているかもしれないけど、12年前は小学生ですからね。そうやって忘れた頃、完全に忘却の彼方に行っちゃうとだめですけど、かなりのパーセンテージで忘れられていたものを復活させると、何となく次のモードになるという大雑把な方策はあるんです。
桜木 そういえば、ちょうど私が新人賞をいただいた頃に「セカチュー」ブームが来たんですが、これが受けている間は私はデビューできないかもと思ってました。
島田 そういう純愛小説は、わりと官能小説と対極のように扱われる部分はありますからね。逆に「セカチュー」が出る前は、ジュンイチ先生が頑張ってたわけでしょ。
桜木 そうですよ、渡辺淳一さん。
島田 ジュンイチ先生の一種のアンチテーゼで純愛小説というものが……この純愛小説もあこぎですよ。必ず相手を病気で殺さなくちゃいけないんだから(笑)。
桜木 またその流れが来るということですね。皆さん期待してると思いますよ。島田さんが次に書くものは純愛小説。
島田 『無限カノン』という、皇室に嫁いだ女性の恋を描いた小説があるんですが、一応純愛ものとして当てていこうと思ったんだけど、病気で殺さなかった。
桜木 そこは書き手の美意識かと。
島田 先ほども言ったように、エンターテイメントにはやっぱり確固として破っちゃいけない法則性、パターンというのがあるのでね。エンターテイメントを本気でやろうと思ったら、そのパターンは絶対守らなきゃいけないと思う。
桜木 今回のテーマと言われた「小説の中の男と女」ですが、貧乏とかままならない現実とか、人と人の間にある埋めようのない溝とかのほうが私にとってはずっとリアルなんです。普通に家庭を持ち、子供も育ててという生活のほうがむしろお花畑の世界なんですね。育った環境を売りにしているわけではないのですが、『ホテルローヤル』というフィクションを書かせていただき、何だかいいケリがついたように思ってます。「普通って何だろう」とずっと考えてきたんですが、「普通」は人の数だけあるだろうと、ここ数年、書きながら何となく分かってきた気がします。
島田 あるキャラクターを描くとき、その表向きだけを書くわけにはいきませんよね。公の場であれば表向きの顔だけ出していればいいかもしれないけど、小説というのはその人の夢とか、家庭での顔とか、あるいは隠しておきたい過去とか、そういうものも描いて、1つのキャラクターというものがいかにいびつであるか、表向きの顔がいかに底の知れたフィクションにすぎないか、ということを明らかにしちゃうようなところがあるわけです。表と裏を全部描き尽くして何ぼというところがあるのでね。もちろん、男も女もそんな一言では言い切れないのですけど。
(2014年3月1日「第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL」丸ビル1階「マルキューブ」にて)
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