その作家に土佐料理の店で会え、さらに伝えたかった話が本当に小説になった。
『銀子三枚』について述べる。
読み始めて、書き出しの場面で私は突如体が震えるような感覚に襲われた。『銀子三枚』は、長宗我部元親の末弟で、私の先祖にあたる長宗我部親房(別名島親房)の三代目である與助(小説では嶋璵介)が主人公になっているが、その時代に漂っていたピンと張りつめた空気が、読み始めると同時に私に伝わってきた。そうか、こういう思いをして、與助は時の藩主である山内家、ひいては徳川政権に、與助の父、五郎左衛門と自分の「差し出し」(身上調書)をしたためていたのか。あたかも與助が文机に向かっているその場に私が引き出され、凜とした彼の後姿を見せつけられているような不思議な感覚に、陥った。物語の展開には、その時代の生きた空気が必要である。山本一力はいとも容易にそれを生み出す。
この物語に登場する五郎左衛門には謎が多い。彼が長宗我部家の血を引く人物であり、親房の後を継いでいることは、山内家の二代目忠義から手紙をもらっている史実などからもわかる。だが、それは間接記録によるのであって、この五郎左衛門本人が直接記したものは何も見当たらない。というか消し去られてしまっている。逆にそういうことからもこの人物は、長宗我部家の血の流れの中で重要なカギを握っていたと推察できる。作家として山本一力がその謎の一面を大胆に解き明かしたのがこの『銀子三枚』である。また、山内家から五郎左衛門が隠居に際して頂戴したという報奨金の銀子三枚を、息子の璵助はいったい何に使用したのか。山本一力は答えをこの作品の中で出している。その着想にうならされた。
山本一力の作品には悪人があまり登場しない。やくざでさえその心根は太く優しい。ささくれ立った現代に、安心して読める作品であるのはそのためでもあると思う。また登場する主人公はほとんどが夫婦仲が良く、家族の絆が強い。二〇一二年には一家そろってアメリカに渡り、国道66号線四千キロの長旅を実行されたという、作家の実生活がそうだからでもあろう。
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