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正論の時代にむけて 『Iターン』 (福澤徹三 著)

正論の時代にむけて 『Iターン』 (福澤徹三 著)

文:福澤 徹三 (作家)

テレビ東京ドラマ24 『Ⅰターン』(毎週金曜深夜0時12分)がスタート!

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『Iターン』 (福澤徹三 著)

  というのが冒頭のあらましで、ひとことでいえば「巻きこまれ型」の小説である。
  悪を選んで生き延びるか、正義をつらぬいて破滅するか。平凡なサラリーマンがそうした岐路に立たされたとき、どういう行動をとるだろう。

 そんな興味から書きはじめたが、小市民対ヤクザという構図が、はからずも善悪について考えるきっかけになった。

 狛江を翻弄する岩切というヤクザは、暴力の権化のような男で、まともなことはいっさいしない。他者とのコミュニケーションといえば、口よりも拳である。

 むろんヤクザの肩を持つつもりはないし、いかなる理由があろうと暴力は慎むべきだが、昭和という時代には、岩切のような男がたくさんいた。荒っぽい生きかたを許すだけの寛容が世間にあったし、庶民たちも、ささいなことで目くじらを立てなかった。

 それはそれで調和がとれていたといえば、眉をひそめるむきも多かろう。ただ、いまとくらべて、ひとびとの表情が明るかったのはたしかである。とはいえ、もはや時代は変わった。

 正論の時代にあって、男たちは大振りな人生を歩めない。拳ひとつあげることができずに、日々ストレスを溜めこんで、金勘定と健康管理に忙殺される。

 それが成熟した社会なのかもしれないし、おのれの判断を放棄して、法という正論にすがるのは楽である。他人からなんといわれようと、自分は法に従っているのだから、まちがっていないといい張れる。

 だが過度なコンプライアンスは、ひととひととのつながりを断絶し、監視社会や訴訟社会を招く。法に反していなくても、まちがっている行為や、法に反していても、正しい行為があるのではないか。

 いずれにせよ、人生は清廉潔白だけですむほど甘くはない。気に喰わない奴がいれば、ぶっ飛ばしてやりたくなるのが本音だろう。そんな浮世の憂さを、すこしでも本書で晴らしていただければ幸甚である。

文春文庫
Iターン
福澤徹三

定価:880円(税込)発売日:2013年02月08日

文春文庫
Iターン 2
福澤徹三

定価:748円(税込)発売日:2019年06月06日

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