書評

実話をもとにした衝撃の物語

文: 福澤 徹三

『死に金』 (福澤徹三 著)

「夜の商売で巨額の金を貯めこみながら、誰にも渡さずに亡くなった男性がいます。私の古い知人なのですが、彼の遺産はいまだに見つかっていません。担当の編集者にその話をしたのが、この小説を書くきっかけでした」

 タイトルの『死に金』とは、貯めているが使われない金の意味。末期癌で死を待つ矢坂が持っているのは、まさに「死に金」だ。彼には巨額の財産があるが、それを誰かに遺すつもりはない。金のありかを知っているのは、矢坂ただ1人。

 矢坂から金の隠し場所を聞き出しさえすれば、すべてが手に入る――。

 この小説はそう考えた人間たちが、彼の元を訪れたある1日の物語だ。昔は矢坂の盟友で、今は落ちぶれたヤクザ、別居中の妻、出世できるかどうか瀬戸際の組長、世の中は金だと思っている若手のチンピラ……どの人間も金に追い立てられている。人はジリ貧になったとき、金に対してどのような態度を取るのか。矢坂の金の行方を追う人物たちを通して、福澤さんは現代社会を鋭いまなざしで見つめる。

「きれいごとを言えば、本来ヤクザというのは任侠道なわけです。任侠とは自己犠牲の美学ですから義理人情を重んじ、利害を超越した行動をとらねばならない。自分が損をするとわかっていても、弱きを助け強きをくじく。男を売るのが商売です。ところが現在ヤクザの一部は強きをくじくどころか、生活保護の不正受給やオレオレ詐欺のように弱者から金をむしりとっている。

 もっとも堅気の社会も金がすべてで、とにかく稼げばいい、自分さえよければいいという風潮が蔓延しています。けれどもホストが一瞬で稼いだ10万円と、サラリーマンが半月かかって稼いだ10万円は等価じゃない。庶民は堅気であって、あぶく銭を羨んではいけない。また子どもたちにそういう教育をしなくてはいけない。金銭の多寡だけで人間を計るようでは、堅気の立つ瀬がありません。金さえあればいいなら、犯罪者だっていいわけですから」

 矢坂の遺産をめぐって、さまざまな過去を持つ5人の人生が交錯する。章ごとに短篇としての決着を見せながら、大団円へとむかっていく。このようなオムニバス形式は、福澤さんにとって新しいチャレンジでもあった。

「映画で言えば『アモーレス・ペロス』や『クラッシュ』みたいに、ひとつの場面を軸にストーリーが分岐していきます。こういう小説の場合、プロットをしっかり固めてから書くべきだと思うのでラストは決めていたんですが、連載中にキャラクターが動き出したせいか、意外な方向にたどり着きました。ぜひ読者の感想を伺いたいですね」

死に金
福澤徹三・著

定価:1418円(税込) 発売日:2013年03月27日

詳しい内容はこちら