A「これでもまだ読んでない君のために随分、気を遣っているんだぜ――。じゃあ、こんな話はどうだい。牧仲太郎が出てくる、といったら?」
B「え、あの直木三十五の『南国太平記』で、お由羅方に与(くみ)して島津斉彬の子供を次々に呪殺する、あの牧仲太郎かい?」
A「そうさ、正宗白鳥がいまどき呪殺とは馬鹿馬鹿しい、と批判したら、当時は皆、呪殺を信じており、それを否定するのは、よほどのもの知らずだと、直木が逆ねじを喰らわせた、あれだよ――」
B「へえ、平成の御世に牧仲太郎にお目にかかるとは思わなかったな」
A「ところが、作者の設定はそれ以上さ。お由羅騒動のときに、表立って呪殺を行ったのは牧だが、実は裏でこれを実行していたのは、反魂(はんごん)入道こと、武士にして恐るべき修験者、丹野源十郎だった、ということで、こちらが本書、最強の敵役(かたきやく)というわけだ」
B「なるほど、伝奇小説の成否は、どれだけ優れた敵役を創造するかで決まるけど、これはなかなか面白そうだ。で、主役の方はどうなんだい。それから“みみらく”っていうのは――」
A「まぁ、そんなに慌てなさんな。ほら、“みみらく”というのは、別名、蓬莱島、仏教でいえば補陀落(ふだらく)浄土、琉球でいえばニライカナイ、つまりは海の彼方の神々の住む島で、当然そこに不老不死、徐福伝説も絡んでくるな」
B「そいつは、ますます気に入った」
A「この島をめぐって、幕末前夜の幕府や薩摩の動向が絡み、一種の群像劇なんだけれど、まぁ、強いて主役はといえば、『竹光左衛門。本名は忘れた』とのたまう旗本、武居美津左衛門に、岡っ引きの金三、道楽隠居の椿屋久兵衛、“欠けら”屋”の巳之吉という江戸っ子四人組と、王が霊魂(マブイ)をおとし昏睡状態におちいった琉球を救うべく、決然と立つ霊感力を持つ美人双子姉妹、ユーリとユーマ。ああ、それから、いつでも腹を切る覚悟ができているという幕府の大番頭、秋月荘八郎なんていう奴も格好良かったなあ」
B「そんなに大勢の登場人物を出して、さばき切れているのかい?」
A「大丈夫、大丈夫。その上に、まさしく屍(しかばね)の山を築きながら展開される忍びと陰陽師(おんみょうじ)の死闘や、海洋時代小説の第一人者だった、故白石一郎も認めたであろう、一大スペクタクルシーンの数々!」
B「持ち上げすぎだろう」
A「さにあらず!」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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