大手商社に勤めるエリート・志村栄利子(30歳)のひそかな楽しみは、同い年の主婦のブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。近所に住んでいた栄利子と「おひょう」こと丸尾翔子は、偶然カフェで出逢い、深夜のファミレスでの“女子会”によって急速に親しくなるのだが、ある出来事をきっかけに不協和音が生じて――。
「20代前半までの女友達って、ただワーッと共感できて、何でもわかりあえたのに、30歳になると仕事の面でも、結婚や出産など生活面でも、状況が変わって、わかりあえないことが増えてきます。20代とは違う筋肉を使わないとコミュニケーションがとれなくなるんです。私自身、友達の意外な一面にびっくりした経験があって、そこから物語が生まれてきました」
関係を拗(こじ)らせた二人が、ふたたび夜のファミレスで対面し繰り広げる衝撃的なやりとり(帯の裏で少し紹介されています)は、ぜひ実際に本で読んでいただきたい前半のクライマックスだ。
「日本は伝統的に“言わず語らず”の文化。コミュニケーションスキルが低いまま30歳になった女子たちが、出会い、関係を結ぼうとしたときに起こるディスコミュニケーションを描こうと思いました。この断絶は誰にでも起こりうることで、決して栄利子や翔子の頭がおかしいわけではありません。二人とも私自身の中に存在する要素だし、絶対に二人を異常者にはしたくなかった。彼女たちはものすごく正気を保ち、きちんと考えながら行動しているのに、ちょっとしたボタンの掛け違い、少し言葉が足りないせいで、よくないほうへよくないほうへと進んでしまうんです。先々のプロットはあまり考えず、二人が泳ぐにまかせて書き進めていきました」
タイトルの「ナイルパーチ」とは、一般に「白身魚」として流通している淡水の食用魚。肉食で、放流されると一つの生態系を壊してしまうほどの凶暴性をもつ。ナイルパーチさながら激流の中を猛然と泳いでいく栄利子と翔子。二人を待ち受ける運命とは――。
「ナイルパーチは異常な勢いで繁殖し、他の魚を食い殺してトップに立つけれど、藻を食べる魚も絶滅させてしまうために藻が異常繁殖して水が汚れ、自分の棲む環境まで悪化させてしまう。かわいそうな存在なんですよ。
栄利子と翔子も、いまの社会が生んだナイルパーチみたいなもの。女性ばかり負荷が追加され、生存競争を強いられている過酷な現実の中、ひととき女子会を開いて甘いアイスで癒やされ、くだらない会話をする(笑)。それはとても大切な時間だと思うんです」
-
官能小説とも恋愛小説とも区切られないセックスレス道というディープな世界
2019.05.30書評 -
彼女の友情が私を食べ尽くす──「女子会」を内側と外側から考える
2015.04.07インタビュー・対談 -
好奇心の赴くままに、新しい世界へ
-
『あまからカルテット』 解説
2013.12.02書評 -
はじめて書いた小説は、親友へのクリスマス・プレゼントでした。
2011.11.09インタビュー・対談
-
『皇后は闘うことにした』林真理子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/29~2024/12/06 賞品 『皇后は闘うことにした』林真理子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。