- 2019.05.30
- 書評
官能小説とも恋愛小説とも区切られないセックスレス道というディープな世界
文:小橋めぐみ (女優)
『奥様はクレイジーフルーツ』(柚木麻子 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
まだこの世に、セックスというものが存在することを知らなかった子供の頃、私は、ハーフが何故生まれるのか不思議で堪らなかった。どうして日本人のお母さんのお腹から、金髪の赤ちゃんが出てくるのだろうか、と。ある時、両親と三人で近所を歩きながら、私は無邪気に母に聞いた。
「お母さん、ハーフが生まれるのって不思議じゃない? どうして外国の血が入った子が生まれるの?」
と。聞かれた母はすかさず、
「ねえお父さん、めぐみが、ハーフって何で生まれるの? だって」
と、少し前を歩いていた父に言った。立ち止まった父は、くるりと振り向いて一瞬母と目を合わせたあと、
「それはねえ、お父さんとお母さんが一緒に住んでいて、同じものを食べていると、そうなるんだよ」
と、ニコニコしながら答えた。(つまり誤魔化した。)
インターネットもなく、深く考えることもない当時の私は、その答えに納得した。
大人になった今も、この記憶は鮮明だ。
質問を父に振った母、一瞬のアイコンタクト、父の返答。
その後どういう経緯でセックスの存在を知ったのか、その時私はどんな風に思ったのか、そこは全く思い出せないのに。
さて。そんな子供時代にはきっと読ませてもらえなかったような小説を、今、私は堂々と手に取っている。おまけに恐れ多くも解説まで書かせて頂くことになった。
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