貧困な放課後が、学力の低下や学習意欲の喪失、コミュニケーション能力の弱体化を生んでいます。
さらに言えば、少年非行の最も多い時間帯は午後四時から六時で、まさに放課後の時間帯です。
放課後の子どもたちは、かつてないほど孤独で危険な状態に置かれているのです。
もちろん、国や地方自治体も現状にただ手をこまねいているわけではありません。仕事を持つ親の児童を学校で預かる学童保育を始め、いろいろな「子どもの居場所」対策を打ち出して、放課後改革に乗り出しています。
でも、その学童保育一つとっても、待機児童問題さえいまだに解決できずにいます。それに、そもそも「居場所」があればいい、ということではありません。肝心なのは子どもたちが「放課後をどのように過ごすか」なのですから。
アメリカの「放課後NPO」
こうした問題意識をもっていたとき、思わぬ取材話が飛び込んできました。「米日財団メディア・フェロー」になれば、費用は全てもってくれて、自由なテーマでアメリカに二か月も取材に行っていい、というのです。そこで、興味のあった少年問題について調べてみたら「放課後NPO」というのに行き当たった。同じような放課後問題を抱えていたアメリカで、放課後の子どもたちの面倒をみる、放課後を豊かにするために活動を特化させた「放課後NPO」が、一九九〇年代後半から次々と設立され、大きな成果を上げているというのです。
これを見たい! と思って応募したら幸い審査を通り、二〇〇三年四月から六月までアメリカに滞在し、各地の放課後NPO、約四十団体を取材して回りました。
詳細は本書をお読みいただくとして、代表的な「放課後NPO」を一つだけ紹介すると、ボストンに「シティズン・スクールズ」というNPOがあります。日本の小中学生にあたる子どもたちが対象で、なんと五百種類以上のプログラムを開発し、格安で提供しています。五百ですよ。
プログラムというのは、ボランティアの「市民先生」が週に一、二回子どもたちのもとを訪れ、技を伝授する、といったもので、料理、ダンス、空手、作曲、歌、写真撮影、新聞作り、絵本作り、Tシャツ作り、ロボット作り、さらには都市計画や株の買い方まであります。
例えば「模擬裁判」というプログラムでは、法律事務所の協力を得て、子どもたちが原告と被告に分かれ、それぞれの立場で準備します。最後の舞台は本物の裁判所、判決を言い渡すのも本物の裁判官なので、子どもたちも真剣で、こうして裁判とは何かを、遊びながら学ぶのです。
プログラムには、体験すること、継続すること、最後に発表の場があること、の三つの要素が必要です。一回きりの講演などではなく、十回くらい連続する企画で、子どもたちが市民先生に弟子入りして技を習得し、最後にみんなの前で発表します。失敗してもいいからやってみる、披露してみる、こうした経験が子どもたちを大きく成長させるのです。
五百を超えるプログラムがあれば、子どもたちも夢中になれる何かにきっと出会えます。貧困と犯罪に悩む低所得者地域から始まったこの活動は、十数年たった今、対象を中学生に絞り、市内のほぼ半数の公立中学校に受け入れられるまでになりました。
こうした「放課後NPO」が、今アメリカでたくさん生まれ、放課後の子どもたちを助けています。
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