書評

鳩山一族の暗部をあぶりだす男

文: 佐野 眞一 (ノンフィクション作家)

『鳩山一族 その金脈と血脈』 (佐野眞一 著)

  黒澤明の映画が無骨な三船敏郎だけでは成り立たず、飄々と(ひょうひょう)した持ち味の三井弘次や凄味のある山本礼三郎といったいぶし銀のような役者をそろえて初めて成立するように、ノンフィクションも主役を食うような底光りのする脇役を配して物語が大きく動き出す。

  本書の場合、その最大の脇役が伊藤斗福だった。斗福は鳩山一郎と気脈を通じた三木武吉ら海千山千の政治家の甘言に乗せられ、大金をまきあげられただけでなく、詐欺罪で逮捕され、十年間の獄舎生活を余儀なくされた。

  ところが、保守合同による五五年体制を築いた祖父の一郎に代わって、孫の由紀夫が政権を取り、五五年体制に幕を下ろしても、自民党結党の陰の立て役者となった斗福の出所後の生活について伝えるマスコミは一つもなかった。

  わが田に水を引くような言い方を許してもらえれば、本書の読みどころの一つは、その斗福の追跡行である。

  この部分を読む者は、鳩山一族の白面の下に隠された暗部を瞥見(べっけん)することができるだろう。斗福がかかえた闇が、陽の当たるところばかりを歩いてきた鳩山一族の光にひそむ陰影をあぶりだすのである。

  本書の読みどころをもう一つあげれば、鳩山一族四代の政治家を母として妻として支えてきた個性的な女たちが綾なす“婦系図”の物語である。

  春子、薫、安子、そして幸とつづく彼女らの存在は際だって“キャラ立ち”しており、鳩山一族の男たちをひときわ頼りなく見せている。

  私は本書で春子をどんな木よりも堅い樫の木に、薫を壁にからみついて生命力を伸ばす蔦(つた)に、安子を雪折れしない柳にたとえた。そして四代目の幸で政治家養成機関としての鳩山家は終わるだろう、と書いた。

  鳩山一族の“婦系図”三代が鳩山家の血脈を一層強固なものにさせ、金脈のパイプをさらに太くさせてきた。その揺るがぬ資産が由紀夫の虚偽献金の原因となり、民主党内閣のアキレス腱となって政権のほころびのもとになるとすれば、まさに歴史の皮肉というべきだろう。

  さらに彼女らの背後にあって、裸一貫同然の境遇からのしあがり、一代で築いた莫大な財産を鳩山家の金脈として惜しげもなく注いだ石橋正二郎という戦後日本最大の“政治投資家”についても、詳細に記述した。

  日本は経済は一流だが、政治は三流とはよくいわれるが、このブリヂストンを創業した男の物語を読めば、それが自然と納得できるだろう。

  マスコミが報じてこなかったこうした話題を満載した本書はいうなれば、「政権交代」という“大文字言葉”のお題目に浮かれて歴史観がまったく欠如した報道をつづける日本のジャーナリズムに対する私なりの批判から生まれた。

  新書にありがちな概説書にはせず、こくのある人間的エピソードをちりばめた本書で、歴史ノンフィクション、人物ノンフィクションの醍醐味(だいごみ)をたっぷりと味わっていただきたい。

鳩山一族 その金脈と血脈
佐野 眞一・著

定価:945円(税込) 発売日:2009年11月20日

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