そもそも、子供の頃から本を読むことも、文章を書くことも大嫌いでしたから、自分の能力として、小説の執筆にはこれっぽっちも自信を持っていません。出来上がった作品に対する自己評価は非常に低いものです。それに比べれば、僕は自分の描く絵が好きだし、子供のときから絵を描くことが好きでした。絵ならば、まあまあ恥ずかしくない程度のレベルにはあるのではないかと感じます。
ただ、他人から絵を褒められたことはほとんどありません。むしろ、下手だとか、不器用だと言われ続けてきました。学校の先生からも絵を褒められたことはないし、ようするに、まだ人に認められたことはないのです。しかし、自己評価では、「まあまあ良い」ということです。僕は、自分の評価は、自分一人でするシステムを採用しています。どこかに審査員を作ったり、大勢の多数決で、自分の評価をするような、民主的な制度は採用していません。僕の場合、自分の評価が絶対的であり、しかも明確です。逆に、他人に褒められても、貶(けな)されても、まったく気にならないし、自分の判断がそれで変わることもありません。子供のときから、そういう点では「余所見(よそみ)をしない子」だったのです。
つまり、こういったとても自分勝手で我が儘な価値観に基づいて、今回の本を人に薦めてみようと考えた次第です。もう少しやわらかくいえば、ようやくなんとか、人に薦められる本を、絵という(僕だけが認める)奥の手を使って作ることができた、というわけです。
さて、できるだけ多くの人に読んでもらいたい、という場合、どうしたら良いでしょう。そうやって、口で言うだけでは充分ではありません。そのためにはどう行動すれば良いか、を考えました。
簡単です。本を無料で配れば良いのです。この発想から、今回の絵本では、著者印税をゼロにしてもらい、逆に僕の方から資金を出版社に提供して、本を作ったり、宣伝をしてもらおうと考えました。もちろん、同人誌ではありませんので、出版社にも出版社のポリシィがあり、流通その他の制約も存在します。僕の申し出は、編集部で物議を醸すことになりました。
全国の書店に流通するものですから、本を無料にすることは困難です。本当に無料にしてしまったら、どれだけ本を作っても足りないし、僕以外に沢山の人が損をします。では、僕が出すお金を使って、新聞やテレビで広告を出してはどうだろうか。それも提案してみましたが、出版社の重役会議にまでかかって、やはり認められませんでした。出版社の立場はよく理解できます。そんな勝手なことを許していては、通常の出版業務に影響が出ます。変な前例を作るわけにはいかないのでしょう。でも、このようなやり取りの末、僕の本気が理解してもらえたようです。普段よりは広く宣伝をしていただけることにもなりました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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