2010.12.20 書評

大人の勉強はなぜ身につかないのか

文: 齋藤 孝 (明治大学文学部教授)

『偉人たちのブレイクスルー勉強術――ドラッカーから村上春樹まで』 (齋藤孝 著)

「英語を社内の公用語にする」

  こんなニュースを耳にして、「そのうち自分は落ちこぼれになってしまうのではないか」と、不安に襲われた人も多いのではないでしょうか。語学でも資格試験でも、大人になってからの勉強は挫折しがちです。毎日の仕事の合間に学ぶわけですから、ある意味、仕方がないとも言える。私にも苦い経験があります。

  しかし一方で、私の知り合いに、朝のスタバでの勉強で司法試験に合格したというサラリーマンがいます。同じ社会人の勉強において、なぜ彼はブレイクスルー(突破)できたのでしょうか。

  学生時代の勉強というのは、ある程度パターンが確立しています。教科書、参考書、問題集などがあって、テストの問題も大体決まっています。おのずと対策の立て方は決まってくる。つまり、やるべきことが目の前にはっきりあるわけです。

  しかし、社会人の勉強には、その決まったパターンというものがありません。まず「到達点をどこに設定するのか」ということ自体、人それぞれに違うわけです。資格を取りたいのか、教養を深めたいのか、新しい世界を広げることによって生の充実感を得たいのか――。

  さらに、その勉強が「ライフスタイル」にうまくはまらないと長続きしません。会社に勤めている人なら、出社前にカフェで勉強するとか、帰りがけに少し図書館に寄るとか、時間の使い方も変わってくる。

  この「到達点」や「ライフスタイル」を見極めることができないから、大抵の場合、大人の勉強は長続きしないのです。

  また、その人の「気質」や「体質」も大きく関わっています。これも見落としがちなポイントです。勉強のスタイルは、身体の「姿勢」と相通ずるものがあります。「良い姿勢」というのは「疲れなくて、長続きする姿勢」のことですが、これには人それぞれ大きな違いがあります。「本で勉強する」というのが自分にとっての良い姿勢という人もいるし、「人の話を聞く」のが頭に残るという人もいる。「ノートづくりで勉強する」のが得意な人もいますが、その作業に時間をかけすぎて、勉強の生産性が上がらないという人もいる。細かくいえば、きっちり机に向かって勉強するよりも、寝っ転がって本を読むほうが頭に入るし、たくさん読めるという人もいます。

  つまり、自分になじむ勉強スタイルを見つけることこそが、社会人の勉強にとっては最重要課題なのです。学校の勉強ではないのだから、型にはまったやり方をとる必要はまったくない。学生時代よりも記憶力が衰えたなどと、マイナスからのスタートを想像しがちですが、学生よりも自己を客観視できる大人のほうが、自分にマッチした勉強術を体得することで、効率的に成果を上げられるはずなのです。

偉人たちのブレイクスルー勉強術
齋藤 孝・著

定価:1300円(税込) 発売日:2010年11月26日

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