- 2014.02.18
- 書評
特定秘密保護法の意味を考えさせる書
文:山田 侑平 (元共同通信記者 人間総合科学大学名誉教授)
『FBI秘録 その誕生から今日まで 上下』(ティム・ワイナー 著 山田侑平 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
私が訳出した本書は、米国防総省やCIAで諜報活動を30年にわたって取材し、その秘密予算に関する報道でピュリッツァー賞を受賞した元ニューヨーク・タイムズ記者ティム・ワイナーによる米連邦捜査局(FBI)100年の歴史である。FBIは犯罪人を取り締まる伝統的な法執行機関であり、同時にテロリストやスパイを見張る諜報機関でもある。だが著者は「まえがき」で後者こそが今日のFBIの主要な任務であると指摘、そこに焦点を当てて本書を書いた。その意味でもこれは前著『CIA秘録 上下』(文藝春秋)の姉妹編である。機密扱いが解除されたばかりの文書7万ページ以上と事件に直接関わったFBI捜査官や当局者の口述歴史(オーラルヒストリー)200件以上が本書の基礎になった。
スノーデン告発よりシリアス
米国版秘密警察の誕生を恐れた議会の反対を尻目に1908年、ルーズヴェルト大統領が司法省の下に設置した特別捜査官34人からなる捜査部隊は、J・エドガー・フーヴァーを迎え、米国の第1次世界大戦参加に伴って急成長を遂げ、敵国スパイ、徴兵忌避者、戦争反対派、過激分子、無政府主義者、共産主義者、破壊分子など、要するに米国を脅かすとみなされる有害分子のすべてを標的として全国的な監視体制を築き上げた。
1917年には米国に有害な情報の所持を死刑に値する犯罪と定めたスパイ法が成立、FBIはその下で初の全国監視プログラムを実施、過激分子の一斉検挙、会話の盗聴、私信の開封などによって有害な思想の持ち主を投獄した。その結果、スパイ法で1055人が有罪を宣告された。だがそのなかにスパイはいなかった。大部分は戦争反対を口にしただけの政治的反対派だった。
FBIが相手とする「敵」はその後、米国共産党、キング牧師を頂点とする公民権運動、白人至上主義団体・KKK、ソヴィエトの大物スパイ、ヴェトナム反戦運動、極左学生テロ組織、オサマ・ビンラディン、アルカイダなど、次々に変わる。そのどれも興味深く、個別のエピソードもスリラー物のフィクションかと錯覚するほど面白く読める。キング牧師の寝室に仕掛けた盗聴器に耳を澄ましているような気分になることさえある。