そうした「風」に乗ってお会いした横須賀市職員の桐ケ谷良之氏は、公的なガリヴァー祭りの推進役である以前に、私的にも実に熱心なガリヴァー研究家で、面白いお話をたくさんお聞きすることができた。その中でも、特に興味を惹かれたのが、ガリヴァーは実は、横須賀市内でもある特定の地――観音崎に上陸したのではないかという研究仮説が存在しているという事実だった。その観音崎という場所は、まさに今現在、私が住んでいるところではないか!
私はその時、作家として、自分の背中を押す大きな「風」の第二波が吹いてきたのかな、と感じたのだった。
そんな最中に、また別方向からの「風」も吹いていた。文藝春秋から新連載の依頼が来ていたのである。私はその連載で、従来の自作とは違ったジャンル、つまり新たな作「風」に挑戦しようと考えていた。こうして、いくつもの風が束になって私の背中を押し、ガリヴァー続編の企図が私の中で再浮上し、『狩場最悪の航海記』の連載が始まることとなったのである。
『狩場最悪の航海記』で、私はガリヴァーを日本に上陸させ、当時の最高権力者、将軍綱吉に謁見させることにした。ガリヴァーは『旅行記』の最終話で馬人間の支配する国に行き、大いに感化されることになるのだが、綱吉と言えば、犬公方ではないか――こうした偶然にも「風」を感じながら、書き進めて行った。そうして雑誌連載が終わった頃、21世紀版の映画『ガリバー旅行記』の公開。今年はガリヴァー・イヤーなのか? これを作品への「順風」と言わずして、何と言ったらいいのだろう。
執筆後も、私の背中を押す不可思議な「風」は吹き続けた。私が著作権管理代理人をお願いしている島崎兆仁(よしひと)氏の父上、あの島崎(幻影城)博氏が、何と私が作中で創作した人物の末裔と言ってもいい家系であることを兆仁氏の口から聞かされたのである! この共時現象(シンクロニシティ)の「風」には、本当に驚ろかされた。
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