2014.12.16 インタビューほか

青春時代から老境までを書くために
90年の歳月が必要でした

「本の話」編集部

『晩鐘』 (佐藤愛子 著)

青春時代から老境までを書くために<br />90年の歳月が必要でした

 老作家・藤田杉のもとにある日届いた訃報。それは青春の日々をともに過ごし、15年の間は夫であった男のものであった。杉は遠い記憶の中にあらためて男の姿を探し始めた……。『戦いすんで日が暮れて』から45年、佐藤家の凄まじい生を描いた『血脈』から14年、あらたな傑作長編小説『晩鐘』を上梓した佐藤愛子さん。瑞々しい青春時代から老境の寂寥まで「人生のすべてを懸けて描いた」その背景を伺います。

『晩鐘』 (佐藤愛子 著)

――本作にはこれまでもさまざまな形で佐藤さんの小説やエッセイに登場する「かつて夫であった男(作中では『畑中辰彦』)」のことが書かれています。あらためて彼のことを書こうと思ったのはなぜだったのでしょうか。

 「辰彦」について書くことは、時期はともかく、ずっと考えていました。作中にもあるように、尊敬も信頼もしていましたが、ずいぶんと苦しめられもしました。実際に彼が亡くなって数年が経ちますが、やはり考えても「わからない」ことばかりなんです。書くことによって何かがわかるのではないかと、漠然と考えておりました。

――実際に作品を書き始められたのは3年前ですね。

 そうです。88歳のある時、尊敬する古神道家の相曽誠治氏から「佐藤さんは90まで生きます」と言われたことを突然思い出し、計算してみるとあと2年しかないことに気づいて……。そこから「こうしちゃいられない!」と、とにもかくにも書き始めました。何に対して「こうしちゃいられない」のか、よくはわかりませんでしたが(笑)。

――本作は「梅津玄へ藤田杉の手紙」という書簡形式の一人称で書かれるところと、三人称で書かれるところがあります。この構成は最初から決めていたのですか?

 いえ、この形式を思いつくまでは、とても苦労しました。自分(佐藤愛子)でもある「杉」の行動や心情を地の文だけで説明するのはどうしてもくどくなって、小説が必要以上に重いものになってしまう。手紙形式ならば余計な説明はいらないし、杉の友人・田代雪枝のような客観的・批判的な視点を入れることもできる。

 ずいぶん書き直しはしましたが、形式が決まってからの苦労はありませんでした。作品の中での時間の往来も自由になって「作品を書く」というより、「作品の中を生きる」という感じになりました。

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晩鐘
佐藤愛子・著

定価:本体1,850円+税 発売日:2014年12月06日

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