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警察小説と「プライベート・アイ」

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「本の話」編集部

『廃墟に乞う』 (佐々木譲 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

──この短篇のラストも、とても物悲しいものです。先ほどおっしゃったように、事件の背後を暴くことが、果たしてみなの幸せになるのかと仙道は悩みます。それでも仙道は、警官として自分がするべきことをして町から立ち去っていきます。次の「消えた娘」は札幌という都市が舞台です。風俗嬢を監禁し、死体を遺棄した犯人。本作は、この加害者と被害者、二人の生い立ちが丁寧に描かれています。

佐々木  被害者の父親みたいな人はどこにでもいると思います。娘の教育に熱心になればなるほど、娘が離れていってしまう家庭ですね。また、この犯罪は、札幌という都市ならではのものだと思います。監禁する倉庫のような建物も、札幌ならば安い値段で借りることができる。だから、犯人のような若い男でもこのような犯罪に手を染めることができるんです。

北海道という土地のさまざまな顔

 

──「博労沢の殺人」は、独裁者ともいえるワンマンな父親とその家族の悲劇です。厩舎の経営という北海道を代表する産業を扱いながらも、家族の相克というものが大きなテーマになっていると思いました。

佐々木  これも実際に起きた事件からヒントをもらっています。まだ未解決の事件です。この短篇では、男家族の物語を書きたいと思いました。それで思いついたのが、『カラマーゾフの兄弟』なんです。粗暴な父親、父親とよく似た長男、斜に構えている次男、そして父親殺しの犯人像……。タイトルも音感を意識してつけました。

──最終話は「復帰する朝」です。復帰目前の仙道の前に、女性の強敵があらわれますね。

佐々木  怖い話を書きたかったんです。人間の内面の怖さですね。そのために、中産階級以上の家庭を出しました。

──なぜ、中産階級と怖さが結びつくんですか?

佐々木  落差ですね。人間というのは、生活に苦労がなければ、健(すこ)やかに育つという単純なものではない。その逆の例は、世の中には多々あるわけです。一見健やかであればあるほど、ギャップが生まれたときの怖さがあるんだと思います。また、舞台にした帯広という街は、まださほど疲弊が目立たない地方都市で、小説のような中産階級がいても不自然じゃないんです。

   この小説で、北海道という土地の多様さを分かってもらえたら嬉しいですね。街ごとにそれぞれ異なる性格があって、そこに起こる犯罪も多様なんです。その辺は、楽しんで頂けるところだと思っています。そして、捜査員の「心の傷」というか、事件に携わることは、たとえ刑事であっても平気なことではないという点。犯罪は、被害者だけではなく、捜査員の心まで傷つけてしまうものなのです。

廃墟に乞う
佐々木 譲・著

定価:1680円(税込) 発売日:2009年07月16日

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