──謎解きの小説が氾濫していますから、朱川さんのように不思議を不可解のまま残す小説もあるべきではないでしょうか。
朱川 科学が進歩して、謎が解明されてきています。金縛りはこういう原理で起こる現象だとか。だから、僕の作品の場合、どこまで真実味を感じさせることができるだろうか、ということでしょうね。
──「空のひと」は朱川さんの作品の特徴のひとつ、「記憶のなかの一点に強い力でさかのぼっていく過去完了形の作品」(石田衣良氏)ですね。過去を玩味(がんみ)することで、現在の立ち位置をあらためて確認できるような気がします。
朱川 これは「オール讀物」に連載したものですが、「オール」に連載するものは、こういう話が多いんです。『都市伝説セピア』(文藝春秋刊)、『花まんま』の路線ですね。誰でも人生で一つくらい不思議なことってあると思うんです。それを、いろんな人の体験談を集めたような感じで書いていて、今の時点から過去にさかのぼっていって、一体あれは何だったんだろう、ということから物語を作っていることが多いですね。技術的にいうと書きやすいということもあります。過去を振り返っていて、そこから五年、十年経ちましたというのは、すんなりいくじゃないですか。だけど現在進行形で書いていて、いきなり三年経ちましたというのは、あまりに目まぐるしいですよね。だけど、リアルタイムと違うので、語り手がいる以上、その語り手は生きているし、いま不幸なことに巻き込まれていることはないはずだという安心感があるので、突飛な展開ができないという弱点はあります。ただ、僕は気に入ってよく使っている手法です。
──今回の作品群の中に、昭和四十年代のキーワードがたくさん出てきます。大阪万博、プレハブ校舎、巨泉×前武ゲバゲバ90分!……。ゲバゲバは一世を風靡したと思うのですが、今ではあまり振り返る記事や番組もないですね。
朱川 変ですよね、あんなに面白かったのに。僕も子供の頃見ていて頭がおかしくなりそうでした。
──東京的な笑いだったのでしょうか。
朱川 関西は喋りで、理で落として笑わせることが多いと思います。ゲバゲバは結構理不尽なギャグも多かったんですよ、シュールなギャグが。どちらかというと東京チックな笑いだったんでしょう。当時、私は小学校二年生だったんですが、そのくらいの子供にはナイスキャッチされそうな、真似しどころ満載の番組でしたね。
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