そしてシニアに参戦します。彼にとってよかったのは、高橋大輔選手、織田信成選手という強い選手がすぐ上にいて、目標となったことです。2人に「勝とうだなんて思ってもいなかった」ところから、差は少しずつ縮まり、2010年の全日本選手権では先輩2人を抑えて、表彰台のトップに上ったのです。そして世界選手権での銀メダル獲得。これで彼はひとつ事を成し遂げました。大きな自信を得たはずです。それまでは掴めない雲の上の先に向かっていたものが、ちゃんと自分の行く道筋が見えたのです。ソチオリンピックに向けていいスタートが切れたと言ってもいいと思います。
一度自分を振り返られる年齢と時期、本にまとめるタイミングが合ったからこそ、彼も素直に語れたのでしょう。
試合直前にサッカーに夢中になって、スタミナがもたなくなった話や、コスチュームをホテルに忘れてきた話など、彼は失敗談も素直に語っていますが、それも成長の証です。自信をつけた今だからこそ話せるのです。
バンクーバーオリンピック後、彼はカナダでの一人暮らしを経験しました。今まで両親がやってくれていたことを自分でやらなくてはならない、さらにスケートの練習があり、体調管理もしなくてはならない、そのことで、彼はさらに脱皮しました。そして「トロントでの変化は、たしかなものとして僕の中に根を下ろしていった」のです。
今シーズン、彼は表現力を強化していこうと目標を掲げています。技術面は素晴らしいものを持っています。無駄のない美しい滑り、難しいステップも音を立てずに滑らかに踏んでいくというのも魅力のひとつです。あとは芸術性。小塚君は今それを習得し、殻を破りかけています。頭の中では、どういうふうに音楽を表現しようかというのは分かっているはずですが、体の内側にあるものを外に出すには、恥ずかしいという気持ちがあってはいけない。そこで悩んでいるのではないかと思います。スケートのうまさに加え、さらにもうひとつ自分の武器を持ちたいとも思っているでしょう。
私が最も印象に残った彼の言葉は「自分で答えをみつけようとする努力をしないでただ答えを求めて、人から答えを得られたとしても、それは身につかない。忘れてしまうものだからだ。とことん考えて、分からないことを人に尋ねる」という部分です。彼には当たり前のことかもしれないですが、なかなか出来ないことです。これはスポーツだけでなく、普段の生活を送る上でも、どんな職業についていても同じことが言えるかもしれません。こういう作業ができるところが彼の強みであり、だからこそ時間がかかるのかもしれませんが、それでいいのだと、この本が教えてくれています。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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