――「あとがき」では「ビートルズでいうところの『ビートルズ・フォー・セール』や『ラバー・ソウル』に位置するような作品を、自分は書く時期に来ている」とも書かれてます。
磯﨑 ベタで恥ずかしいんですが、ビートルズの中期のはじまりに発表されたこの2作品あたりから、カバー曲が消えて、全曲自分たちの作詞作曲になるんです。いわばビートルズが試行錯誤をしながら、作品を高めようとしている時期です。
この連作を書いたことで、自分が鍛えられたという感じはすごくあります。遠くまで泳げるようになったというか――。前から話していることですが、僕という人間は全然大したことない。でも「僕の小説はすごいな!」と思っているんです。自分の中の「小説の力」を信じているかぎり、いろいろなことに惑わされることなく、これからもずっと書き続けていける、と。
――単行本のタイトルは、連作の中から選ぶのではなく、中国の古典を出典とする言葉を敢えてつけられました。
磯﨑 自分の小説に共通する、過去と現在を包含するような意味のシンプルな四字熟語を探していて、見つけました。
装幀をお願いした横尾忠則さんも、この言葉をとても気に入って下さった。カバー絵として使わせていただいた「N・P」という「Y字路」シリーズの一作も、絵の中心部が「今」として迫ってきていて、絵の両側が「過去」として去っていくというイメージで描かれています。だからこそ横尾さんから、「磯﨑さんに〈共時性(シンクロニシテイー)〉を感じる」と言っていただいたときは、とてもうれしかったですね。