- 2010.04.20
- インタビュー・対談
島田荘司 × 寵物先生 (ミスターペッツ)
アジアから現れた本格ミステリーの超新星
「本の話」編集部
『虚擬街頭漂流記』 (寵物先生(ミスターペッツ) 著/玉田誠 訳)
出典 : #本の話
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
島田 島田荘司推理小説賞に応募しようと思ったきっかけは?
寵物 当時の台湾推理作家協会の会長、杜鵑窩人(トゥチュアンウォレン)さんから、「創作している者はみんな応募しろ。もし、ひとりも受賞できなかったら、協会員全員丸坊主だ!」と言われたんです(笑)。協会からは私を含めて四人が応募しました。私はずっとヴァーチャストリートの話を温めていて、ちょうど骨組ができた頃だったので、これを書き上げて応募しようと決めました。タイミングもよかったし、今がチャンスだと思ったんです。
受賞が決まった瞬間は嬉しかったですね。これで仕事を辞めようと思いました(笑)。
島田 そしてみんなを丸坊主から救った(笑)。ところで台湾大学のミス研は、評論や、作品の紹介が主な活動で、創作はまだそれほど盛んではないと聞きましたが……。
寵物 私が人狼城推理文学賞(現在の台湾推理作家協会賞)を受賞した後、ミス研の中に、自分の作品を朗読したり互いに意見を言い合ったりする創作グループを作りたいと思ったのですが、なかなか難しいですね。
島田 台湾大学のミス研が、近い将来、作家を続々と輩出する、京都大学ミステリー研究会のようなかたちに発展していく可能性はありそうですか? 日本で、綾辻さんたちの新本格のムーブメントが台頭したのは、彼らの作風が新しかったからなのですが、その新しさとは、京大ミス研内部の空気の新しさで、これがそのまま中央の文壇に持ち込まれたのでした。また京大ミス研では、犯人当て小説を朗読するという伝統があって、これは朗読だから、文章の美しさや上手さよりも、必要にして十分なだけの情報が聞き手に伝わるか、そして返す刀で真相を隠蔽する、そういう技術の研磨に重心が置かれました。のちに盛んに言われた新本格の長所も欠点も、実はこの犯人当てクイズの持つ性格なのですね。
いずれにしろ、京大という一級の知性によって、東京の文壇とはまったく違うアプローチで、まったく違う世界が創出されたことは非常に意義がありました。台湾大学のミス研にも、同様な貢献を期待したいところです。
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