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生き続けることの大切さ

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「本の話」編集部

『少年譜』 (伊集院静 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

──少年小説でエロチシズムを出すのは難しいことだと思いますが、それが猥褻(わいせつ)にならずに描けている作品だと思います。性というテーマは、「茶の花」でも出てきます。意図的に、性に挑戦してみようというお気持ちだったのですか。

伊集院  それは、ありました。短篇として、その時期に自分に書けるベストをつくしたいと思っていますから。

──「朝顔」は耳の奥にある音の記憶を頼りに、故郷を訪れるという、幻想的でまたミステリー的な要素もある作品です。

伊集院  私は、松本清張の「点と線」が好きで、主人公が己の出生を尋ねる旅に出るという構図は、その影響を受けているのかもしれません。仕事以外では、時代小説やミステリー小説をよく読みます。清張作品では、「天城越え」も好きです。少年小説の傑作だと思っています。

──ラストは、「親方と神様」という中国山地で暮らす鍛冶屋の職人と、その仕事に憧れる少年の物語です。

伊集院  私自身が、子供の頃、鍛冶屋になりたかった。小学生のとき、鍛冶屋の仕事をずっと見ていて、学校に行かないことがあった(笑)。また、聖書に出てくる職業に興味があります。鍛冶屋にしても、大工にしても、娼婦にしても、ずっとなくならないものですからね。

──鍛冶屋に憧れる少年に対して、親からの依頼もあって、親方はその夢を諦めるように諭します。その不器用な諭し方にこの小説の魅力があると思いますが、この短篇も、単行本で大幅にラストを加筆なさっています。

伊集院  少年は、鉄鋼会社に就職して昭和の大合併を成し遂げ、「鉄の番人」と呼ばれるようになります。その男が飛行機に乗って、親方と歩いた山を眺めるシーンを加筆しました。この小説集では「励め=生き続けろ」ということが結果として貫かれていて、加筆することでそのことが分かりやすくなったと思います。しかし、今までの私だったら、このような加筆はしなかった。あとは自由に考えてください、という姿勢だったのです。その典型が「トンネル」という作品です。しかし、今は加筆部分が必要だと思う。「トンネル」と「少年譜」、「親方と神様」。この間に、私という人間の変化があると思っています。

少年譜
伊集院 静・著

定価:1575円(税込)

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