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「西洋化」に代わる物語を

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「本の話」編集部

『中国化する日本』 (與那覇潤 著)


ジャンル : #政治・経済・ビジネス

中華文明・日本文明、1000年の構図

――江戸時代の「徳川文明」ができたと。いわゆる「国民性」とか「日本らしさ」のようなものはこの時、「中国化」の影響力を脱することで初めてできたんだ、という点を本書は強調していますよね。そして、それがあまりにも日本人にとっては居心地がよかったので…。

與那覇 心のふるさとになってしまって、疲れるといつもそこに帰りたがる(笑)。自分の本では「再江戸時代化」という言葉で表現している部分です。明治維新で産業革命をやってガバッと競争社会にしたけど、「昭和維新」では農本主義で農村を救えとか、ブロック経済で雇用を守れとかで、ガチガチの国家統制に戻しちゃう。戦後も高度成長でガンガン人口が都市に出てきて根無し草になると、田中角栄の国土の均衡ある発展とか、竹下登のふるさと創生事業とかで、やっぱり『古き良き地方社会』のイメージを守ろうとする。小泉改革であれだけ規制緩和だ自由競争だと言ってたのに、彼が首相を辞めたらあれよあれよという間に昭和ブームが起きちゃって、「やっぱり、ちょっとくらい不自由でも我慢しあって生きてくのが日本人だよ」みたいな(笑)。これは結局、中世の頃に「中華文明」を取り入れかけたんだけど、結局それについていけなくて別の道を選んだ、*日本文明というものの体質の表れなんです、よくも悪くも。

――サブタイトルにある『日中「文明の衝突」一千年史』というのも、そういう含みがあるわけですね。元寇や日中戦争のような、両国が直接「軍事衝突」した事例だけではなくて、中華文明と日本文明という二つの文明が、東アジアでパフォーマンスを競い合った1000年間という構図で描かれている。

與那覇 その通りです。逆にいうと、今日のグローバリゼーションの核にあるとされる「西洋文明」というのは、新参者として後から日中に割り込んできたわけ。しかもコイツが曲者で、ある面では中華文明に似てるのだけど、他の面では日本文明に近い。その結果として、20世紀の半ばまでは日本文明のほうが相対的にうまく適応していたのですが、冷戦が終わる頃から、昨今かまびすしい「停滞する日本」と「台頭する中国」という構図が出てきちゃった。江戸時代って基本的には農耕文明で、そのムラ社会を護送船団方式や日本的経営に改装することで、工業化にも適合させて「延長」してたのが昭和期の「再江戸時代化」だったんですけど、資本主義が金融化・情報化・サービス産業化していくと遂についていけなくなった。最初は「COOL JAPANで世界市場を席巻だ!」とか言ってたはずが、今や「韓流やK-POPに国内市場を盗られる」とかいう話になってるでしょう(笑)。西洋文明のうち中華文明に近い方の側面がグローバル化で前面に出てきたから、中国・韓国の方がうまく乗っかっちゃってるわけですね。

――そして『中国化する日本』ということは、1000年間の戦いを経て、最後の勝利者は中国に…?

與那覇 いえ、そうは断定していないんです、よく誤解されてるみたいですけど(笑)。むしろこれまで長いこと、「西洋化」とか「グローバル化」とか言われると、あたかも自明に「いいもの」だとか、「欧米先進国に並ぶためにやらなくちゃいけないこと」みたいに見えちゃってたわけじゃないですか。でも、「それ、実は中国化かもよ」って言われたら、ちょっとギョッとなるというか、少なくとも、「いったいその内実が何で、どんなメリットとデメリットがあるのか、きちんと判断してから考えよう」とは思いますよね。それこそが今の日本で必要な態度だと思うし、実際、近代以降「西洋化」してきたと言われてる日本だって、実のところは「中国化」しかして来なかったんじゃないかとも言えるので…。

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中国化する日本
與那覇潤・著

定価:1575円(税込) 発売日:2011年11月19日

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