
生後千にちの走井(はしりー)は,見る位置によって鏡の映すものが変わってしまうふしぎに,速くまた遅く往き戻り見あげ見おろしたあげく,ではだれも見ていないときの鏡はなにを映しているのだろうといぶかって,じゅうぶん長く,と千にちの走井(はしりー)におもえたあいだ背をむけていてから急にふりかえってみたり,果てはきっぱりとへやを出ていってから,おもいもかけない,と鏡にとってかんじられるだろうと千にちの走井(はしりー)がかんがえたすきまからのぞいてみたりしたそうだった.だがどうしても鏡の老獪と敏捷とに勝てなくて,だれも見ていないときの鏡を見ることはできなかったと,九ばいも生きたころ,走井(はしりー)はわらって話した.
プレゼント
-
『夜に星を放つ』窪美澄・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2025/02/05~2025/02/12 賞品 『夜に星を放つ』窪美澄・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。