生後千にちの走井(はしりー)は,見る位置によって鏡の映すものが変わってしまうふしぎに,速くまた遅く往き戻り見あげ見おろしたあげく,ではだれも見ていないときの鏡はなにを映しているのだろうといぶかって,じゅうぶん長く,と千にちの走井(はしりー)におもえたあいだ背をむけていてから急にふりかえってみたり,果てはきっぱりとへやを出ていってから,おもいもかけない,と鏡にとってかんじられるだろうと千にちの走井(はしりー)がかんがえたすきまからのぞいてみたりしたそうだった.だがどうしても鏡の老獪と敏捷とに勝てなくて,だれも見ていないときの鏡を見ることはできなかったと,九ばいも生きたころ,走井(はしりー)はわらって話した.
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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