テロワールの味を取り戻す
ようやく誤りに気付いた造り手たちは、ブドウ畑を見直すことにしました。一度汚した土を再生するのは容易なことではありませんが、除草剤や殺虫剤の使用を止めたり、控えたり、化学肥料の代わりに堆肥を施すようになりました。微生物の棲みやすいふかふかの土にするため、昔ながらに馬と鋤(すき)を使ってブドウの畝間(うねま)を起こす造り手もいます。こうして再び、フランスワインはテロワールの味を取り戻しつつあるのです。
テロワールの味は無限です。隣り合う畑のワインですら、異なる味わいを持っています。それに収穫年ごとの違いが絡んできますから、ますますワインの多様性は広がりを持つことになります。
「だからワインはわからないんだよね」
そんな声が聞こえてきそうです。たしかにデパートのワイン売り場や専門店に入ってみますと、世界中のワインが数えきれないほど並んでいます。お値段も一〇〇〇円前後から始まり、上に至ってはキリがありません。白、赤、ロゼ、それに発泡性のワインまで。この四種類の分類だけでも十分ややこしいのに、国が違う、産地が違う、揚げ句の果てには畑が違う。さらに同じ畑名なのに造り手が違う、収穫年が違う。
一生かければおそらくウィスキーのシングルモルトを制覇することはできるでしょう。世界のビールをすべて飲んでみることも不可能ではないと思います。しかし、ワインは無理です。一生かかっても、また全財産投げ打ったとしても、フランスのワインすら制覇することはできません。
ギフトとして喜ばれるワイン
じつはこれだけいろいろな種類があるからこそワインは面白いのです。一生かけても味わい尽くせない多様な風味を楽しみつつ、そして無限の選択肢の中からいつかは「これだ!」と思える一本に出合えたとしたら。
それでも「ワインはよくわからない」と拒否反応を示す方にはこの一冊、文春文庫の『手みやげは極旨ワイン!』。一ページに一本ずつ、世界一三カ国、下は二〇〇〇円以下から始まり上は六万円台まで、合計一二四本のワインをボトル写真とともに紹介しています。これでも世界中のワインの数からすれば、わずか数万分の一、いえ、数百万分の一に過ぎませんが、それぞれに個性的で、もちろん美味しいワインを選び抜きました。解説をお読みになり、飲んでみたいというワインが見つかったら、あとはワインショップに本書を携えて行き、「このワインください」と言うだけ。小難しいうんちくを勉強する必要はまったくありません。
タイトルにあるように、紹介されたワインはギフトとしても喜ばれるアイテムがズラッと揃っています。たとえばこのようなエピソード……。
今年定年を迎えたお父さんに、本書を見て娘さんが贈ったワインはスペインの「アールト」。自動車会社の開発部門にいたお父さんは、娘さんが大学生の頃リストラにあい、別の自動車会社に再就職しました。新しい職場でも奮起したお父さんは、前の会社で開発した車とは別次元の小型車を完成。内外から高い評価を得ています。なぜ、娘さんがアールトを贈ったのか。その答えは本書の一四六ページに。
こんなことを書いていたら、いつの間にかボージョレ・ヌーヴォーの解禁時間になってしまいました。今、届いたばかりの一本を早速開けることにします。今年は夏場の雨で品質が心配されましたが、今抜栓したこのワインはヌーヴォーらしい、若いバナナのようなアロマが華やかに香り、味もかなりしっかりしています。つまみはちょっとメタボが心配されますが、本場リヨン風にハムやソーセージで。本書にボージョレ・ヌーヴォーは入っていませんが、年末までの期間限定で、手みやげワインにお薦めです。
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