- 2016.03.25
- 書評
「勉強する意味、あるの?」と思ってしまったあなたのための物語
文:太田 あや (フリーライター)
『国語、数学、理科、誘拐』 (青柳碧人 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
勉強は何のためにするのか?
学生のころ、何度も何度も考えました。親や教師から理由もなく「あなたのためだから」と言われたとき、成績が上がらず目の前の問題を解くのが億劫になったとき、受験勉強の息苦しさから逃れたくてしょうがなかったとき。ふて腐れながらいつも「勉強する意味、あるの?」とつぶやいていました。
勉強に対し前向きで、頑張っている同級生たちは、自分で勉強する意味を見つけていました。勉強する先の目標という形で。だから、思っていました。自分も勉強する意味が分かったら、もっとやる気がでるんじゃないかなと。
社会人になり、中高生向けの通信教材をつくる会社に就職したときも、現在、フリーランスのライターとして取材で学生さんに会って話しているときも、勉強法に関する原稿を書いているときも、今でもまだ勉強する意味を自問自答することがあります。
二年ほど前、この問いを久しぶりに投げかけられたことがありました。
ばったり会った知り合いの編集者さんが、一緒にいた青柳碧人さんを紹介してくれました。青柳さんが元塾講師という経歴を活かし、塾を舞台にしたミステリー『国語、数学、理科、誘拐』を書いたという話を伺っているときでした。突然、編集者さんに聞かれたんです。
「この本で青柳さん、勉強は何のためにするのかという疑問に対する答えを書いているんですけど、何だと思います?」
ミステリーを書く元塾講師は、どんな答えを出すのか、全く見当がつきませんでした。とは言え、著者本人に「何のためですか?」とネタばらしをさせるような質問をする勇気もなく。その日は結局、答えは分からずじまいでした。
それから数日後、編集者さんから本書が送られてきました。
手にしたとき、本の帯にふと目がとまりました。
「勉強すると、人に優しくできるんだって。」
これが、青柳さんの勉強することに対する答えでした。一体どういうことなんだろう。わたしは早速、本書を読み始めました。