書評

日本人作家が書いた沖縄をテーマとする小説でいちばん好きな作品

文: 佐藤 優 (作家)

『太陽の棘』 (原田マハ 著)

 もう一つ山之口貘の詩を紹介したい。

 

〈    不沈母艦沖縄

守礼の門のない沖縄
崇元寺のない沖縄
がじまるの木のない沖縄
梯梧の花の咲かない沖縄
那覇の港に山原船のない沖縄
在京三〇年のぼくのなかの沖縄とは
まるで違った沖縄だという
それでも沖縄からの人だときけば
守礼の門はどうなったかとたずね
崇元寺はどうなのかとたずね
がじまるや梯梧についてたずねたのだ
まもなく戦禍の惨劇から立ち上がり
傷だらけの肉体を引きずって
どうやら沖縄が生きのびたところは
不沈母艦沖縄だ
いま八〇万のみじめな生命達が
甲板の片隅に追いつめられていて
鉄やコンクリートの上では
米を作るてだてもなく
死を与えろと叫んでいるのだ〉
(前掲、『山之口貘詩集』133~134頁)

 

 ウィルソンには、自分がタイラとその同胞の沖縄人を不沈母艦に乗せているという現実を頭では理解している。しかし、皮膚感覚がそれについていかない。それだから、タイラとの軋轢が生じたのである。もっともタイラは、「ウィルソンが沖縄と沖縄人を理解できない」ということを理解している。その上で二人の友情は成り立っているのだ。

 原田マハ氏は、小説家の優れた才能と人間的な温かさにより、どんなに善意の人間であっても、理解できない事柄があることを明らかにした。私は日本人が書いた沖縄をテーマとする小説で『太陽の棘』がいちばん好きだ。

太陽の棘原田マハ

定価:本体640円+税発売日:2016年11月10日


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