『武道館』を朗読してくださった夢眠ねむさん。武道館を目指すアイドルグループの爽やかな青春小説だけにとどまらない本作を全て読んで、現役アイドルとして等身大の言葉で感想を寄せてくださいました。
私の本業はアイドルである。
だからだろうか…この物語を「読まないであげて」、そう思ってしまった。いや、読んでもいいんだけど、できれば読まないで欲しい。あ、朝井さんに怒られるかこれ。推薦文だし。でも、同業者として、この物語の子たちの秘密を、頭の中を、守ってあげたくなってしまった。
アイドルだって人間だ、と私はよく言い、アイドルのくせにとねじ伏せられるのが大嫌いである。これは私が根っからアイドルに向いてない性質であるから発言できるのであって、か弱いアイドルはこんなこと言っちゃいけない…あ、このいけない、というのが危険なのだった。でも、ボーントゥービーアイドルはきっとこんなこと言わない、言っちゃあいけない…ああ、やっぱりこうして本業アイドルだからこそ染みてしまっている感覚がある。だから私はあの子達を守ってあげたかった。最後まで、秘密を知られないルートでの武道館成功を願った。
アイドルが武道館を目指すことはもはや珍しいことではない。それどころか、どのアイドルも目標、区切り、終着点として掲げている。私たちにとって活動の中でコンマやピリオドの役目をしているのが武道館だ。今では「武道館(済)」かどうかはアイドル界でのスケールとなっている。
この物語は、心優しいアイドルヲタの、血の通った妄想…失礼ながらそうさせていただく。果たして、この愛に、私たちは甘えていていいのだろうか。
夢を見せるのが仕事である私たちアイドルは、この暖かで優しい、想像力に満ちた、我々を人間扱いしてくれる切なくも愛に溢れた妄想を軽々と飛び越え、優しく裏切り、時には激しく破り加筆し塗り替えて新しいコンマやピリオドを作り続けなくてはならないのではなかろうか。
だから、まだその答えまでいってないから、朝井さん、ちょっと待って欲しい。私たちに、アイドル自身に未来を作らせて欲しいのだ…う、別に、優しくされたからって泣いてるわけではないんですよ、これは目にゴミが入ったとかそういうのであって、アイドルはこんなタイミングで涙を見せちゃいけない。苺があったら自撮りをしなくてはいけない。恋人もいちゃいけないし、そう、前髪が崩れるなんてもってのほか。アイドルをなめてもらっちゃ困る。
アイドルは、やはりどこまでも、アイドルヲタを笑顔にするためのいきものなのだから。
夢眠ねむ
アイドルグループ「でんぱ組.inc」のメンバー。
アキバと世界を繋ぐ新しい時代のスーパーアイドル!映像監督やコラム執筆、美術家としても活動する等、ジャンルに関係なくカルチャーを結ぶポップアイコンとして活躍の幅を広げている。