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「でんぱ組.inc」夢眠ねむ、朝井リョウ著『武道館』を朗読!【第2回】

「でんぱ組.inc」夢眠ねむ、朝井リョウ著『武道館』を朗読!【第2回】


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

アイドルグループ「でんぱ組.inc」のメンバーである夢眠ねむさんに、朝井リョウさんの最新刊『武道館』を朗読していただきました。 「アイドルという職業が背負う十字架について、考えて考えて、考え抜いて出た結論を書きました」と朝井さん本人がおっしゃるとおり、 この作品は武道館を目指すアイドルグループの爽やかな青春小説では終わりません。 アイドルファンの方にも、そうでない方にもぜひ読んでいただきたい傑作です。『武道館』発売の4月24日まで全5回にわけてお届けします。

ダンスレッスンのためにスタジオに集まった、NEXT YOUの5人。メンバーのひとり、真由がダンスの先生に注意された理由とは。(『武道館』第2章より抜粋)

 事務所が借りているレッスンスタジオは、住宅街の中にあるので迷いやすい。最大で二十人ほどが使えるスペースの壁一面が鏡になっており、一時間単位で使用時間が振り分けられている。事務所が常に借りているスタジオは、ここしかない。

「1、2、3、4、5、6、7、8」

 先生のカウントに合わせて、上体を前に倒していく。愛子と真由の上体がまず、一番はじめに動きを止める。柔軟性が足りず、自分だけ鏡の中の世界が見えてしまうこの恥ずかしさは、いつまで経っても薄まらない。碧、波奈、るりかの三人は、ここではじめてレッスンを受けたときからきちんと体が柔らかかった。

 0、つまり真ん中が碧。碧の右側にはるりか、碧の左側に愛子。さらにその左側に波奈、るりかの右側には真由。杏佳が抜けて、すべての曲のポジションがそう変わった。

「今日はもう仕上げだから。まずカウントで復習する? いけるんだったら、音でやるけど」

「音でやりたーい、曲、聴きたいもん!」

 先生の問いかけに、るりかがハイッと手を挙げる。実はダンス歴が最も長いるりかは、一番年下のくせに、今日も片方の肩が出ているような大人っぽいレッスン着を使っている。

「じゃ、とりあえず音で通しちゃおうか」

 ストレッチを終えると、先生は、鏡になっている壁にもたれるようにしてしゃがみこんだ。愛子たち五人は、イントロの立ち位置につく。

 杏佳がいたころは、0を挟むような形で、杏佳と碧が最前列に並んでいた。その他の四人は後ろの列であることが多かったが、いまでは、碧がすぐそばにいる。

 イントロが始まった。隊形は、碧を頂点にした三角形。碧を起点として、ワンテンポずつずらして同じ振りをなぞっていく。必然的に、愛子は碧の動きを見て、そのとおりに動くことになる。五人になってはじめてのシングルは、十一月にリリースすることが決まった。プロモーション期間を長く確保するため、できるだけ早い段階で曲も振付も完成させてしまうというのが大人たちの計画らしい。今回は、都内だけでなく、地方のショッピングモールでのリリースイベントもいくつか決まっているらしい。

 碧が拳を握る。一番のAメロが始まる。(つづく)


「でんぱ組.inc」夢眠ねむ、朝井リョウ著『武道館』を朗読!

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武道館
朝井リョウ・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2015年04月24日

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