2015.04.21 書評

アイドルが自分で選ぶこと それは一つの復讐である

文: 酒井 順子 (エッセイスト)

『武道館』 (朝井リョウ 著)

 アイドルブームが続く今。私がティーンの頃もアイドルブームだった気がしますが、その頃と今とで異なるのは、アイドルがアイドルを自称するか否か、なのだと思います。

 私と同世代のアイドル達は、自分がアイドルであることに気づいていないフリをしつつ、アイドルをしていました。彼女達は、「え、私は自分が可愛いなんて思っていませんし、人気者になりたいなんていう欲望も抱いたことがないのに、たまたまこうなってしまったんです」という顔をしていなければならなかったのです。つまり「アイドル」という称号は、あくまで他称でなくてはならなかった。

 そんな当時のアイドル状況に一石を投じたのが、小泉今日子さんの「なんてったってアイドル」。それはアイドルが、「自分がアイドルであることを私は自覚していて、その状況を楽しんでいるのだ」ということを歌った曲でした。

 当時はタブーであった、「アイドルによるアイドルの自覚」を、あえて前面に押し出したその歌を作詞したのは、秋元康さん。アイドル達が「アイドル」を自称し、「いかにアイドルになりたかったか」「いかに努力しているか」をアピールすることがアイドルとしての美徳となる今の時代につながる種子を蒔いたのが、その歌であったと言えましょう。

「武道館」の主人公の日高愛子は、そんな「アイドル自称時代」を生きる、あるアイドルグループのメンバーです。が、彼女はおそらく、現在のアイドルが普遍的に抱く感覚とは、ほんの少しずれた気持ちを持っています。だからこそ彼女は、アイドルとして生きていく中で、ある違和感を抱くようになる。

 日高愛子は、明確な憧れや上昇志向をもってアイドルになったわけではありませんでした。ただひたすら、歌うことや踊ることが好きであったから、アイドルになった。

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武道館
朝井リョウ・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2015年04月24日

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