書評

ひたむきに夢を追う女硝子師の物語

文: 蜂谷 涼 (作家)

『夢の浮橋』 (蜂谷涼 著)


 主人公の名は、おはん。かつての私のように、理由のわからない苛立ちや物足りなさを持て余している、半ちくな女だ。そんなおはんが、自らの生涯をかけて取り組みたい、と願う道を見つける。時代の常識を蹴破り、周囲の猛反対を押し切り、嘲笑をものともせずに、ひたすら前へ前へと進む。その過程で、師への敬愛はいつしか恋情に変わっていく。師であり、恋人であり、やがて乗り越えるべき壁となる人との激しい葛藤を経て、おはんは、表現者として大きく羽ばたき始める。

 このような構想が固まった瞬間、これはきっと楽しく書き進められるだろうと確信した。

 ところが、いざ書き出してみると、これまでにも増して自分自身をえぐるように見つめ、切り刻み、さらけ出すような作業が必要になった。やがて、作品を生み出すおはんの苦しみが、私自身のそれと重なっていった。作中の「なぜこんな道を選んでしまったのだろう」というおはんの嘆きは、私の思いそのものだ。デビュー以来13年、飽かずに細々と小説を書き続けてきたが、書くのがこんなに苦しかったのは初めてだ。なのに、どうしても書かずにはいられなかった。何かに突き動かされているようだった。

 心がひりひりするほどの恋愛を書くのは大好きだけれど、「表現者を表現すること」や「表現者の作品を表現すること」は、とても難しかった。書いて直して、直して書いて……。悩みに悩んだ挙句に、自分の力のなさが悔しくて、泣けてきた夜もあった。それでも、こうして書き終えられたのは、30年前に魂に刻まれたあの感動が、鮮やかに生きていたからだと思う。そして、私の素人丸出しの数多くの質問に、いつでも快く答えてくださった淺原氏のおかげも、とても大きい。

 物語の終盤で、おはんは「暗闇の果てにこそ、きっと光は見える」と心につぶやく。そこに至るまでの、ひたむきに決して諦めずに夢を追い続けるおはんの姿が、この作品を読んでくださる方々の胸に、小さくても温かな灯となって点ってくれることを心底願わずにはいられない。

夢の浮橋
蜂谷 涼・著

定価:1575円(税込) 発売日:2011年09月28日

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