書評

ハルチカが本編の謎に迫る! 初野晴による、解説にかわる特別短編「究明するひと」

文: 初野 晴

『運命は、嘘をつく』 (水生大海 著)

『運命は、嘘をつく』 (水生大海 著)

 みなさん、こんにちは。わたしの名前は穂村千夏(ほむらチカ)。高校二年生、所属している部活は吹奏楽部でフルートを担当、心のスローガンは〈『やればできる』は魔法の合い言葉〉で、いまに部員からウザがられるんじゃないかとドキドキしています。

 近況報告をするね。不覚にも三日くらい連続で朝寝坊をして部活の朝練に遅刻したとき、部長から笑顔で「穂村さんはクジラに負けない能力を持っているね」といわれ、それはもしや神秘的な能力なのかと胸をときめかせたら低血圧のことでした! 海中に棲んでいるクジラは哺乳類の中でもっとも低血圧な動物らしい。でも最近の研究では低血圧のひとほど長生きするようだし、若さを保つ秘訣になるみたいなの。なにがいいたいのかというと、前向きに生きていれば、前のめりに倒れるから、すこしでも人生の先に進めると信じたい十七歳であります。

 

 さて。ここからが本題。

 いま、わたしの隣には、同じ吹奏楽部でホルンを担当している上条春太(かみじょうハルタ)――ハルタがいる。わたしのことをチカちゃんと呼ぶハルタとは六歳まで家が隣同士で、高校で再会した幼なじみだ。廃部寸前だった吹奏楽部を立て直した功労者でもある。

 わたしたちふたりは目的地の河川敷前に到着した。歩道ではウォーキングや犬の散歩中の中高年、学校帰りの小学生の集団がランドセルを揺らしている。夕陽が射すその場所は、テレビドラマによくある川辺の土手の光景だ。好きなひとと一緒に歩けたら、ちょっとロマンチックかもしれない。ちなみにわたしの好きなひとはハルタではありませんよ。彼とは吹奏楽部の顧問の草壁信二郎(くさかべしんじろう)先生をめぐる恋のライバルなんですから。

 え? どういうことかだって? 皆までいわせないでくださいよ。

 すれ違うひとびとに風を感じた。さほど重たくなさそうな鞄を肩に担ぐハルタは、額に手をかざしながら辺りをきょろきょろ見まわしている。さらさらの髪にきめ細かい白い肌、二重まぶたに長い睫毛。その一挙一動にランニング中の運動部の女子中学生たちがふり向く。実に禍々(まがまが)しい光景だった。

「チカちゃん、本当にここでいいの?」と遠くに目をやるハルタがいった。

「たぶん」とわたしは首を傾げ、頬に手を当ててこたえる。

「探しているひとってだれだっけ?」

「ガンさんとツヨシくん」

 いったいどこにいるんだろう……。歩道から土手に下りて、人気(ひとけ)のない陸橋の下へ向かう。草深く、前に進みにくい。

「足下に気をつけて」

 ハルタが注意したので視線を真下に向ける。雑草が生い茂っているばかりでなく、廃タイヤや金属くず、骨の折れた傘、自転車などが捨てられていて、どうやらゴミの不法投棄が行われているようだった。ロマンチックからアスレチックな場所に移り、だんだん不安になってくる。

【次ページ】

運命は、嘘をつく
水生大海・著

定価:本体600円+税 発売日:2015年10月09日

詳しい内容はこちら



こちらもおすすめ
書評暴走する“普通”のエゴイズム(2013.05.21)